とりあえずご苦労様
★★★☆☆
週刊文春1978年 総合9位
私は、必ずしも横溝正史の良い読者とはいえないが、完成度の高い作品とは思えなかった。素封家を舞台として、複雑でどろどろな人間関係が巻き起こす惨劇は、いつものパターンなのであるが、迫力に欠けている。昭和48年とはいえ、学生はそんな話し方はしないだろうとか、随所にどうでもよいような場面があるからか。殺人現場の見立ては印象的なのだが、何せ無駄に話が長くて緊張感がもたない。事件の決着のつけ方は、良いとは思うけど。
金田一耕助は、1913年生まれらしいので、生誕100年まであと数年。本書が、最後の事件に相応しいかは疑問であるが、とりあえずご苦労様でしたといいたい。
長い...長くて退屈...
★★☆☆☆
いや、もう他に書きようがない。
作者が老骨に鞭打って、最長長編を書き上げたことには敬服するが、その内容たるや退屈をガマンしてまで読むほどの価値は認められない。
一応本格ものの態をなしてはいるが、そこで用いられているメイントリックも作者の有名作品の使い古しだし。
本書が執筆された当時は角川映画シリーズやTVの横溝正史シリーズのお陰で作者は人気絶頂、本書も映画化され金田一耕助最後の事件と喧伝され話題沸騰だったことから、本書はそれまでの作者の代表作と同等以上に売れに売れ、角川書店の宣伝勝ちだった訳だが、ブームの過ぎ去った今となっては一顧だに値しない作品。
本書を金田一耕助・最後の事件だからといって評を甘くするのは、レビューを参考にしてこれから読もうという人には大いに迷惑なことだし、それだけの理由で本書が評価されるなら、金田一耕助・最初の事件で第一回探偵作家クラブ賞受賞作の「本陣殺人事件」などは、もっと評価されるべきだろう。
横溝正史ベスト10級の最後の傑作
★★★★★
横溝正史が晩年に生み出したロマン大作。会心の出来だったかどうかはわからない。「悪霊島」に着手するまでの繋ぎとしてスタートしたのが、いつまでたっても収拾つかず苦しんだ話が、数々のエッセイで書かれているからだ。
上下二巻は確かに長い。ただ、どうも、これでも連載分の贅肉をそぎ落としたらしく、実際はもっと長かったらしい。そのおかげか、事件の展開こそ遅いものの、冗長と感じられる箇所は少ない。
大都市が舞台だが、横溝の都会物に付き物だったエログロ、猟奇怪奇趣味が抑えられ、岡山物とも異なるしっとりした味わいが出ている。「黒猫亭事件」に似た感覚か。
トリックは、「蝶々殺人事件」の流用ありで、特筆するものはない。しかし、クライマックスでの犯人ならぬ、黒幕との心理闘争は素晴らしい。「八つ墓村」で、金田一耕助は、犯人の死の間際に激烈な心理闘争を行ったというエピソードを語るが、形を変えて再現したと思われる。
ラストの数々のハッピーエンドたるエピソードが、緊張感を削ぐため、減点しがちだが、これは著者の優しさゆえ付け加えずにはいられなかったのだろう。
傑作だと思う。ただ、この作品でエネルギーを費やしすぎたゆえ、本命である「悪霊島」の出来が締まりのないものになった気がする。合掌。
いたずらに長い推理小説。設定にも無理がありすぎ。
★★☆☆☆
最初の事件が未解決に終わり、20年後に起こった別の事件と共に解決される、という話。だが読んでいて、最初の事件が未解決になる必然性が今ひとつ分からなかった。金田一耕助の力をもってすれば、十分解決できたはずなのだが・・・。20年後の事件が起こる必然性もあまり伝わってこない。それに、20年後の事件はドラマとしてあまり面白くなく、登場人物にも魅力が乏しい。
そもそも、設定にも無理がありすぎる。血縁関係はあるが双子ではない二人が瓜二つである、と最初に示されて、それをもとに話が展開していくのだが、一卵性双生児でもないのに双子のようにそっくり、ということは現実にはまずありえない。
まあ現実離れした空想話として読んでいれば面白いストーリーなのだろうが、推理小説としては正直どんなものかと思う。
金田一耕助最後の事件。もう一人の主人公は「等々力警部」
★★★★☆
最後に書かれた金田一耕助の作品は「悪霊島」であるが、最後の事件はこの作品である。
明治の時代に、軍医から転身し病院を設立し隆盛に導いた「法眼鉄馬」、彼と同郷で政商としてのし上がった「五十嵐猛蔵」。この二人から始まる両家の歴史には縁戚関係をこえた暗い関係がある。この物語は、本妻の子、妾腹の子、養子が絡み合う複雑な人間関係の両家を巡って展開される連続殺人事件である。著者の十八番、ドロドロの設定である。
昭和28年に始まったこの事件は、20年を経過した48年に最終的な解決を見るのだが、著者がそこまで事件の解決を延ばした理由が二つあるように思える。一つは、事件の解決方法などが時代に合わなくなった金田一耕助に対する花道。著者はあえて事件の解決を20年後にすることで、ラストシーンをより印象的にしようとしたのではないか。もう一つは、長年金田一耕助と多くの事件を共にしてきた「等々力警部」に対する花道である。既に退職して私立探偵事務所を経営している等々力元警部は、刑事になった息子が“組織捜査”という言葉を繰り返すのを寂しがり往時を懐かしむ。
しかし、この事件は、もはや現役ではなく時代に取り残された感がある二人の“個人の力”によって解決され終幕となる。二人の引退をこれ以上印象的にする設定はないだろう。
著者はこの後「悪霊島」で岡山の磯川警部のドラマも書き上げる。この二つの作品が書かれた背景は色々あるのかもしれない、例えば映画化ありきだとか…。著者は金田一耕介と同じくらい両警部に愛着があったはずである。書いてよかった作品であるに違いない。著者の推理小説を殆ど読んでいる私にとって愛着のある作品である。
ただ、初めてこのシリーズを手に取る人は「獄門島」や「悪魔が来りて笛を吹く」から読んだほうがいいかもしれない。推理小説としての出来はこちらの方がいいと思う。