秘録!ノモンハン。隠すことなき、ロシア側からの総括。
★★★★★
ノモンハン事件はその隠蔽された胡散臭い過去の故だろうか、断片的な伝聞知識しか持っていなかった。
敗北の事実を国民に知られないように「生き残りの兵士は前線に送られた」とか「実際は予想をはるかに
超える損害があったのだ」とかいう類である。
近年、ソ連の崩壊にともない、新たな資料が現出し、それをネタにいくつかの著作も
なされるようになった。
しかし、その多くは、ノモンハン事件が時期的に第二次大戦前夜であったことから、
機械化の遅れ、第一次大戦後の戦略の変化に対する対応不足、自己保身に終始した上層部など、
歴史的な流れの中での位置づけに終始してはいないだろうか。
そんな中で、この本は、ソ連側から見たレポートであるという点で一線を画していると思う。
勝った側のソ連軍大佐・シーシキンの筆になるものであるから、誇張もあろうし
数値的なことにも一概に信用は置けない。
しかし割り引いて読んでも、兵器の運用と兵站の差は明らかだ。
彼我の軍の動きが明確に記されている。
最後は圧倒的な兵力の差だ。
日本は日露この方、第二次大戦に至るまで、常に兵員・兵器の補充に充分ということがなかった。
さらに後半のシーモノフの「ハルハ河の回想」に至っては、眼を覆いたくなるような惨状が記されている。
旅順の惨状も斯くやと思われる酸鼻を極める描写だが、勝者の文にしてなお、圧倒的に火力に劣る
状況下での、日本軍兵士の善戦ぶりが読み取れる。