死神はもはや過去の遺物となった
★★★★☆
本作の、頭脳をデジタル化したことによって手に入れた不老不死というアイディアは近年のSDカードの高容量化と小型化を目の当たりにしていると妙にリアリティを感じてしまいます。そこで疑問に思ったのは、人間の本能は記憶だけが受け継がれる不老不死を望むのだろうかということです。本来人間の生存本能は遺伝子の継承が根源にあると思うのですが、本書では記憶だけがデジタル化され遺伝子はないがしろにされています。そのため肉体の相対価値が大暴落を起こしている点は本作中での人類の終末観をうかがわせます。
本書はその世界観をベースとしたSFハードボイルドというキャッチですが、ミステリーよりの読後感を持ちました。というのも主人公のタケシ・コヴァッチのボイルド具合がいまいち中途半端なのです。序盤の段階で甘い判断から、普通ならこれで死んでしまうでしょ、という危機から都合よく逃れるのがそのあとも懲りずに軽率な行動をしすぎです。特殊部隊がこれじゃ命がいくらあっても足りんでしょ、とツッコミを入れたくなります。展開としては下巻の中盤まで少し我慢して読んでいただくとそこから一気に転がりだします。そこからはストレートな展開で見事な着地だったと思います。そのあたりが本書をSFミステリーだという所以です。
ハードボイルドというからには主人公のキャラにもうひと捻りがほしかった点で星四つとしました。