甘美な人生 (ちくま学芸文庫)
価格: ¥237
本書は福田和也の最初の文芸批評集である。フランスのコラボラトゥール(対独協力)文学の研究書『奇妙な廃墟』でデビュー以来彼は数多くの作品を発表しており、平成4年に『日本の家郷』で三島由紀夫賞、また平成8年には本書で平林たい子賞を受賞した気鋭の評論家として注目されている。
序章にあたる「批評私観」では、捉えがたい何かによって根本的な問いを投げかけ、媒体から独立した作品として力を発するのが著者の考える批評のあり方として示される。こうした近代文芸批評を確立した功績を小林秀雄に認め、最終章で著者はその孤独な後継者を自任している。小林が批評の本質として開示した「日本とは何か」という問いかけは、日本人にとって自身の存在に関する根本的な問いであり、著者は和歌や神道など日本的精神風土をめぐる考察に本書の後半を割いている。最後の小文「甘美な人生」でたどり着く「無意味な生存の肯定」は、著者が決意する陶酔の追求を可能にする日本特有の感受性にほかならない。
「批評とは何か」に始まり「日本とは何か」へ行きつくまでの道程は柄谷行人、村上春樹から芥川・谷崎を経て柿本人麻呂までを論じる密度の濃い内容である。豊穣な日本語と多様なディスクールによって読者は圧倒され、ときには反発を感じつつ、精神を激しく揺り動かされるだろう。(林ゆき)