今だからこそ勉強になる内容です
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本書の著者である明石康氏は、日本人初の国際連合職員として知られますが、国連カンボジア暫定統治機構事務総長特別代表等国連の重要ポストに就任して活躍してきた方です。そんな明石氏の筆による本書は、分量からみれば100ページ前後なので読みやすい内容ですが、書かれていることは非常に生々しく、国連職員であった明石氏でなければ書きえないドラマティックな内容となっています。旧ユーゴスラヴィアに国連が派遣したPKO、国連保護軍(UNPROFOR)のなかで、実際に紛争現場ではどのような内戦状態が生じていたのかがリアルに伝わってくる内容です。旧ユーゴの紛争は、近年ではアフガン、イラクと続いてきたアメリカ主導の「対テロ戦争」の陰に隠れて存在感さえなくなりつつあるような状態がありますが、本書を読めば紛争現場でどれだけ悲惨な殺戮の嵐が吹き荒れていたのかが、非常に生々しく伝わってきます。国連が国際紛争の解決を目指して動く時、どうしても避けられない欠陥は、安保理常任理事国間の意見の不一致という政治的事情だと思います。が、そんな政治的思惑とは関係無しに、民族間の敵意はどんどん増幅していき、紛争が激化してしまう。そんな現実に向き合うことで限界を感じながらも、自分に一体何ができるのかと冷静な思考に徹することで職務を果たした明石氏は、普段テレビなどで見る穏やかな表情からは想像さえできないような厳しい職務への使命感に溢れていたのだなと思わされます。また、アメリカという現在存続している唯一の超大国が、どれだけ重要な位置にいて、ときにどれだけ不合理な要求を押し付けてくるのかもリアルに描かれています。イラクでのアメリカの政策が誤りだったことが世界的に認識されるようになった今こそ、本書を是非読んでみてもらいたいと思います。当事者にしか書けない貴重な叙述から、私たちは正義とは何かを考えさせられることになるでしょう。