揺るぎない信念。
★★★★☆
一元論に陥らない。敵を想定しない。
常に相手の話を良く聴き、双方から信頼を勝ち得る。
「公平に」とはよく口にされるが、これほど難しいことは無い。何かと「こちらは正しい、あちらが悪い」という一元論で紛争を語りがちな西欧諸国から「手ぬるい」と批判を受けながらも、この原則を守り続け紛争の調停にあたり続けた明石氏の揺るがない信念には感服するばかりである。長い歴史を紐解けば解くほどに善悪が付けづらくなる紛争を解決に導くには不可欠の原則であろうが、表層的に悪が決めつけられ力による制裁が行われ混乱が増している問題が多い中、改めてその大切さが学ばれる。
自分の行動についての事後説明は好まない。
自己弁明や自己弁護に堕してしまう恐れがある。
とにかく潔くない
これらの言葉の背景にある明石氏の絶対的かつ謙虚な自信。自分は最大の努力を以てその当時でベストと考えられる決断を取ったという自負がなければ、このような言葉を口にすることはできない。プロフェッショナルの鑑とも言うべき姿であると思う
聞き手の迫力にも脱帽です
★★★★★
90年代国連PKOの「明」と「暗」を象徴するカンボジア和平とボスニア紛争。
その両方で責任者を務めた明石康氏への緊張感あふれるロングインタビューです。
ボスニアに関する詳細な研究(すなわち、セルビア悪玉論からの脱却)が
ジワジワと進む中、まさに真打ち登場という感じで上梓された
画期的なテキストではないでしょうか。
対立する紛争当事者双方と徹底的に対話し、決してどちらにも与しない。
理性と度胸と平和主義の塊のような明石氏の実像を、
重みのある質問で実に巧みにあぶり出しています。
スレブレニツァの虐殺に関する貴重極まりない発言も去ることながら、
個人的には、例の田母神論文に対する明石氏の鋭い指摘に心が震えました。
「そうなんだよ、オレもそれを言いたかったんだよ!」と膝を叩きまくった次第。
直接的なタイトルに少し違和感を感じますが、
新書でこんなに重みのある本は久しぶりです。
インドシナや旧ユーゴの歴史をもっともっと知りたくなりました。
外交官の立ち振る舞いとは
★★★★★
明石康氏の国連での仕事を振り返る、自伝とも言える1冊。
インタビューにより、進行する。
カンボジアPKO、セルビア紛争がインタビューの中心である。
外交官の発想、立ち振る舞いについて、極めて明晰に語っている。
これが読みどころである。
続いて国連という組織の組織、行動原則、文化に関しても、非常によく分かる。
我々は国連というとセレモニーにも似た総会等を思い浮かべるが、
明石氏が語っているのは、国連という官僚組織の内部であり、日常である。
ああ、役所だ。
そう感じさせるところが、本書の白眉な点である。
さらにタイトルにもあるように、
紛争地域での交渉の裏話が面白い。
明石氏が貫いた原則は、
人に対するレスペクトを忘れないことだと思う。
セルビア紛争での各指導者へのぶれない対応は、
公平で、イデオロギーにまみれておらず、
とても日本的だと感じた。
人命をかけた交渉をいかにまとめるか。
利害を超えて決着をつけることの困難さを、
明石氏は淡々と振り返る。
その語り口が素晴らしい。
大変示唆に富む1冊である。
国連職員としての仕事
★★★★☆
国連職員としてカンボジア和平やボスニア紛争にどのように関わってきたのかが分かります。
今まで知らなかった国連の仕事というのが少しだけ理解できたような気がします。
インタビュー形式での内容ですが、歴史的背景を知っておかないと深いところまで分かりません。
最後に年表がついているので、それに目を通してから本文を読むほうがいいと考えます。
また、タイトルの「独裁者」というのは多少大げさで、実際は紛争時のリーダーとの交渉ということかと思いました。
真の「現実主義者」明石康の軌跡
★★★★★
1990年代以降、頻発する国際紛争の最前線で、調停者の立場で当事者としてコミットしてきた明石康。本書は、ユーゴスラビア問題とサッカーを中心に取材活動を続けてきたジャーナリスト・木村元彦が、よく準備し煮詰められた的確な質問で突っ込んで聞き出した、国際調停の現場で本当にあったこと。
カンボジア、ボスニア(旧ユーゴ)においては国連事務総長特別代表として、スリランカでは日本政府代表として調停にあたった明石康の話からは、もちろん極秘事項については触れられていないだろうが、ウラ話も含めて実に興味深いエピソードの数々が披露されている。紛争当事国でリーダーシップを発揮する政治指導者(・・「独裁者」というに明石氏もあとがきでいうように、表現としては少し過激だが)のナマの人となりや言動も伝わってきて、読んでいて非常に面白かった。
さまざまな制約条件のなかで、現場リーダーがいかにその時々で最善の意志決定を行うか、グローバル組織における現場と本部との関係、限りなく偏向した欧米マスコミ報道にどう対応したか・・などなど、国際機関に勤める人間以外にも興味深い内容だ。
国際紛争の調停者として活躍した日本人・明石 康は、良き調停者は、まず何よりも「良き聞き手」(グッド・リスナー)たれと繰り返している。交渉術についても、テクニックというよりもアート(・・このコトバにはもちろん”術”という意味もある)であるといっている。ソマリアにおける調停が失敗した理由の一つが、欧米流の黒白ハッキリさせる交渉術が現地では嫌われたからだと指摘されるとき、なるほどと深く納得させられた。
国際社会で自己主張することは重要だが、日本人のよき特性である人間関係構築を活かしていくべきだ、という明石氏の主張には、長年国際調停の最前線で活躍してきた人の発言だけに耳を傾けるものがある。
真の「現実主義者」明石康の軌跡をたどった本書は一読の価値がある。