ところがこの本は違いました。患者である少女の視点という主観的な描き方にも関わらず、取り巻く家族の問題、治療の現状、病状の克明ななど客観的に理解できるように仕上がっています。
この著者である心理療法士はよほど洞察力が高いのか、この病気の心理状態を大変よく理解してます。
大体の医者は、私たちの抱える「自己否定感」に気づいてくれません。
自分の意思で、痩せることを断固として辞めない、自己中心的な病気だと言います。
でもこの作者は違います。拒食症がどれほど自分を突き放して、生きていて申し訳ないと考えているか、そしてそれがナゼ起こるのかを、見逃しませんでした。
当然、生育環境は人それぞれで、拒食症すべてが同じ原因から発症するわけではなく、患者個々に合わせた心理療法をしなければいけません。
それは著書が常にどれほど多くの精力を使い、ぎりぎりの駆け引きを続けているかを想像させます。
こんな人に治療の手助けをして欲しいと心から思った一冊です。
読み終わった頃には自分が少女と同じ一年間のカウンセリングを受けたかのような内省的な気分になります。ベスト3のもう一冊は同じ著書の「鏡の中の孤独」です。同じ少女がついに「私は太っていない」と考えられるように回復するところを描いています。
この二冊は、患者、家族、治療者など、この病気を関わる人には是非読んで欲しいです。
ちなみに、もうベスト3の最後の一冊は「あなたの愛する人が拒食症になったら」です。これも同じように「自己否定感」に焦点を当てています。
少女は、ちょうど女性として芽生える思春期、究極の人間美を求めるバレエを習っているところから始まり、すぐに彼女の危うさ、不安定さを察します。でも、それがどれ程、深いのか、何に起因するのか、始めは全くわかりません。親になった父、母がしっかり自分と向き合ってこなかった、ある種の幼稚さ、或いはわかっていて先延ばしにしてきた身勝手さが、一番、末っ子で、ずっと家族を客観的に見てきた、そうゆう立場にならざるおえなかった、少女の長く深い深い苦しみとなって表面化していきます。
このお話しは、一人の少女を通して、拒食症という病気の深さ、家族がよくも悪くも子どもに与える影響の大きさ、人の親となることの重さ、を切に訴えてきます。同時に、少女を中心に、父・母・姉・兄、彼女の治療を橋渡しする医師、職業慣れしたカウンセラー、そして彼女を癒す切り口を見出す人間味溢れるカウンセラーなど、ひとりひとりが物語の中で、彼女を通して自分を見つめ、苦悩していきます。そして、医師やカウンセラーを始めとして、病院にいる様々な職業の人が出てきますが、どの専門職に就いても、大切なのは時として知識よりも、人間性なんだなぁ、と思わされます。
結末は、大変、重く考えさせられます。少女が完全回復するという結末ではありません。読んだ限りでは、彼女の容姿が元に戻ったり、完全回復した、ということでもなかったように思います。でも、重く深く大変な現実はそのままに、夢でも童話でも無い、現実の『希望』がみえてくる結末です。ひさしぶりに読み応えのある本でした。心理学に興味がある方、教員・カウンセラーを目指す方、お子様をもつ方、どうぞ一度は手にとって読んでみてください。人は皆、幸せになるためのバランスをとるために悩み、葛藤していることがわかる本です。