心の芯に響く名文句
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「人間は調子のいいときは、自分のことしか考えないものだ」源六は涙をながれるままにしてそう続けた、「……自分に不運がまわってきて、人にも世間にも捨てられ、その日その日の苦労をするようになると、はじめて他人のことも考え、見るもの聞くものが身にしみるようになる、だがどうしようもない、花は散ってしまったし、水は流れていってしまったんだ、なに一つ取り返しはつきあしない、ばかなもんだ、ほんとうに人間なんてばかなものだ」
私は、この一節を読んだ時、「ああ…」と嘆息した。自分の今の心境とあまりにも酷似しているからである。周五郎はいい。世間の人間が周五郎を呼んでいる限り、日本は大丈夫な気がすると、宮崎哲弥も言っているが、その通りであると思った。
周五郎原作の映画は、今も時々作られている。世間の話題となった作品も多い。一人でも多くの日本人に読んで欲しい。そして“ほんとうの”人情を知って欲しい。荒みきろうとしている、世相に抗するためにも。