芸術の基本書
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三島由紀夫にとって芸術は人生を基礎として作られ きわめて理性的に美感により価値を判断されるべきものであったのがよくわかる 決して芸術は現実逃避ではないのだ
あらゆる文化の作品の 動機 現実への対抗力 パーツの作品内での位置付けを分析し また作品全体の意義と効果を当時の人生観 為政者の理想を基礎として言い当てたり 同時代の作品と比べ
どこが特異なのかを言い当てたりする あらゆる微妙な印象に至るまで解き明かしていることに「細部に神は宿る」の具体例を実感した 三島は作品をめぐる あらゆる原動力 あらゆる視点 あらゆる様式の中心点に立って書いているのだ 他者の 芸術の意図を解読できる三島 時代が上澄みとなる象徴や印象 人間という限界と共鳴 表層で輝きたい深層
芸術家の発想 歴史の理想は どのように普遍性となるかを どこまでも明晰に三島はとらえる 矛盾しあう真理を総合できてこそ いつまでも深遠な光輝なのだ 三島由紀夫はストーリー作り 分析力 美意識 どれをとっても世界最高峰だ
二十代でピカソのゲルニカの主題を読み取ったのも冒頭のノートで法学部出身でありながら24歳にして西洋の古典の原動力として美が どのように発現されてきたかを あのようにまとめているのに
驚かされたが 三島の頭脳がずばぬけているのも一因だが わたしたちが偏差値に追われていた歳に
古典の解説講義を受けられたこともあるのではないか わたしも級友たちも大手進学塾に通ったが
友人は塾で読まされたり問いに答えさせられた小説は実地の人間関係に役に立たないという
わたしも百年後には読まれないような作品ばかりテキストや入試問題として読まされた気がする 三島の没後40年近いが 現代の美についての書き物を浅薄な独断と偏見と思わせる
最高峰にいまだに三島作品は位置づけられていい
文化の基礎理念を知りたい方々に お薦めである
三島が活躍した二十世紀半ばまで 人間に対しても思想に対しても鍛えたり窒息させたりの繰り返しであった
総決算の時代に 三島だからできる芸術論陣 格闘と合流 神秘のなかの現象と本質の網羅である