戦後の喧噪、失われた粋を読む
★★★★☆
8人の60〜80歳代の築地市場の生き証人たちが、東京の台所の戦後の繁栄を問い語りに振り返る。
小揚、軽子、ターレ……築地文化は知らない用語ばかりだ。昔は独特の符丁もあって、警察も簡単には入れさせず、泥棒は自分たちで見つけたらぼこぼこにして川に放り込む。やくざ者も多くて、手鉤で殴り合い、「どけどけ」と叫びながら台車が疾走する。読んでいると、戦後の築地が目に浮かぶようだった。外国人がセリ場でカメラ撮影しているというのが信じられないくらい、昔の築地は世間と隔絶した殺気立った空間だったように思われる。
かつての若い衆たちが語る、ちょっとした市場の粋な仕草というのが面白い。例えば、手鉤を椅子代わりに使う、1トンもある台車(小車という)を引く技など。今は搬送トラックもあり、手鉤を使わないことも多いので、使える人は減りつつある。今、築地市場には豊洲への移転計画がある。賛否両論で移転するか不透明だが、著者は移転するにせよしないにせよ、築地から失われた文化、記憶は多いという。
用語解説や市場の仕組みも十分に説明されているが、専門性が高くて、全く無縁だと、ちょっと取っつきにくい感じもする。だが、仲卸業者の子として生まれ、知己も多いこと著者だからこそ、職人気質なインタビューイから戦後の築地像を鋭く切り出せている。一大観光地築地を生み出す元となった、戦後築地の「記憶」を文字に残そうという、著者の取り組みに好感をもった。