良質な政治史の通史。
★★★★★
本書は2002年に出版された同名書の文庫版である。
扱っている時代は憲法発布頃から明治の終わりまで。著者は明治のキーワードを「不羈独立」とする。さまざまな人々が「不羈独立」を目指して努力した、その軌跡を描こうとしている。
本書は主として政治史に主眼を置いた通史である。政治に関しては丹念に描いており、とても面白い。怒りの度合を東京からの距離で表現する井上馨や、伊藤博文と伊東巳代治の愛憎取り混ぜた師弟関係など、政治家の個性や関係性も、とてもおもしろかった。
現代ではあまり使わない漢字や、漢文調の読み方(不可避「さくべからざる」など)人名、地名や歴史用語にはにルビがふってあり、知識がなくても楽しめるつくりとなっている。ルビの多さは一般書の中でも多いほうだと思う。
政治史の第一人者が書いたすばらしい本ではあるが、政治史以外の分野の記述に乏しい。本書は明治における経済構造の変化や民衆が描けていないと思う。二つの大きな対外戦争である日清・日露戦争に関しても、「不羈独立」を目指す中での動きで捉えられており、肯定的に評価しているように思う。日清・日露戦争に関しては、その負の部分も描くべきである。
だが、一冊の本ですべてを網羅するのは無理であり、明治政治史の通史として高く評価できる本である。