貴重な戦時下での医療体験記です
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本書の構成は3部からなっています。一つ目は大型商船改装空母である「隼鷹」に医務官として乗船し、マリアナ沖海戦に参加。二つ目は内地の海軍設営隊軍医長。三つ目は終戦直後に復員船の医務長として海外からの引き揚げ船で診療に従事。
どれも貴重な体験で、当時の日本を覆っていた物資の窮乏や困窮の実態を一人の医師の目線から読みやすく書き記されています。筆者は内科医ですが、復員船の中で虫垂炎の手術を余儀なくされたり、隼鷹が被弾・大破した際の熱傷の手当、はたまた日本刀による切創により半ばもげかかった腕を解剖書をみながら縫合したりと、悪戦苦闘ぶりに頭が下がる思いです。
本書が軍医という比較的軍隊内では恵まれた立場の人間から書き記されたものであることを差し引いても、筆者のメッセージは今なお新鮮であり、若い医師や、これから医師を目指そうとする若者には是非お勧めの一冊です。