ニューギニア戦を理解するのにまず読むべき戦記
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大東亜戦争の陸軍南方戦闘について最初に読むべき書。間違いなく傑作の戦記。20対1の率を著者が生き残った東ニューギニア戦が主だが、その前に勝ち戦だったマレー半島からシンガポール島までの進軍状況もとても良く理解できる。敗走するイギリス軍が日本居留民をはじめスイス人家族なども惨殺して行ったという記述は他書でも得がたいもの。
著者は特に軍医志向ではないキャリアの医師として「短期現役」で出発したがシンガポール陥落の日に「長期現役」軍医に転向している。著者は陸軍工兵連帯付軍医、戦闘兵科部隊付軍医の配属で、工兵は後方で橋を作る役割だったのかと思うとこれが全く違って最前線の橋渡しや研究段階だったポートモレスビー攻略の先駆けなど最も緊張する危険な役割であった。
前書名「あゝ南十字の星」昭和54年8月刊。
・とにかく旧軍の戦記に欠けがちの地図が豊富。14葉あり、最後の2葉にはちゃんと縮尺がついていて何がどうなっていたのか大勢が良く理解できる。特にニューギニアは今でも良い地図がネット上にない上に地名の変更があり、地図が入っていることが記述の理解に欠かせない。
・いかにも軍医が書いた戦記らしく、症例が豊富。p.253にある、終戦後に米軍のための作業で受傷した准尉に米軍医の見守る中で野戦病院の陸軍軍医チームが腎臓摘出を成功させ患者が復員できた話はすごい。
・ポートモレスビー直前からの無意味な転進、ギルワからの転進、その後も過酷で無意味な転進と、飢餓とマラリアを招いた大きな原因が用兵にあったことがわかる。
南方の戦線の状況をその時の前線から見た記述も各所にある。戦争の状況は輸送状況の変化からも読め、大東亜戦争の南方の状況を大局的に理解するにもうってつけの書。