(恋愛)文学は不倫からはじまった、と聞いたことがある。それがこの本を評してのことかどうか忘れたけど、トリスタンとイズーの関係は、いかにも象徴的だ。
西洋人の愛が(というほどよく知らないけれど)、日本人が感じるような穏やかなものではなく、破滅、そして死をも内包しているものだということがよく分かる。だからこそ、あれほど燃え上がる。
そして知らず知らずのうちに儒教道徳に則って思考する日本人にとって、トリスタンとイズーの関係は、あきらかに(王への)忠義にもとる行為であり、そこに愛こそあれ、正義などはありはしない。だから二人の不倫関係を王に忠告する四人の家臣を、本書では悪人として描いているけど、なにが悪いんだかわかりゃしない。東洋だったら、この四人は口に苦い諫言を呈する忠臣だわな。
つまりは、正義は、強さと美しさにあるのだ。トリスタンは強い。イズーは美しい。だから正義なのだ。ヒーローは強い、ヒロインは美しい、だから正義なのだ。目から鱗ですね。
この物語には、二人のイズーが出てくる。
黄金の髪のイズー。
白い手のイズー。
トリスタンは、この、二人の美しいイズーに愛される。
一人のイズーは、トリスタンと共に媚薬を飲む。.
もう一人のイズーは、トリスタンの妻になる。
トリスタンの運命は、二人のイズーが握っている。
そして、一人のイズーの運命は、もう一人のイズーが握っているのだ。
あなたは、どちらのイズーが好きだろう?