部分的には参考になりますが、論理展開がやや強引。
★★★☆☆
参考になる点はありますが、読者によって好き嫌いが相当に分かれるほんだと思います。比較的、多くの読者に益があるのは第1章でしょう。
「日本人には、社会的に高い位置にある人々や、経済的に恵まれている階層に対し、決して寛大な気持ちで接しないという共通の態度が認められます(P.2)」という意味において、「日本人は非常に嫉妬の感情を強く共有している」と著者は述べています。この指摘には同感ですが、「嫉妬」とはやや違うと思われる心情をも敢えて「嫉妬心」として説明する場合があり、少々、強引な論理展開のあるとの印象を受けました。
「第1章 嫉妬の正体(P.14-45)」は参考になりました。ここでは嫉妬の特性といった類の話題が集められていますが、「人は何に嫉妬するかといえば、答えは簡単。すべての事柄に対して、である(P.27)」という指摘は的を射ています。ちなみに例外には「常人とかけ離れた天才に対しては嫉妬することがない」が挙げられます。ただし、一種の天才である数学者らがフェルマーの最終定理やポアンカレ予想を解いた学者に嫉妬した話は耳にしたことがあります。つまり、天才は天才に嫉妬しますから、「常人は天才に嫉妬しない」というのはあくまで相対的な問題でしょう。
第2章以降は参考になる指摘もあるのですが、論理展開の強引さがやや目立ちます。例えば、「第5章 嫉妬の日本史」では源頼朝の義経に対する仕打ちを嫉妬で説明しています。著者は、北条正子が頼朝の持つ嫉妬心を煽りたてたであろうとも指摘していますが、嫉妬が義経放逐の動機の一要因だという点には同意するものの、それで全ての頼朝の行動を説明するのは困難だろうと思います。こういった「全て嫉妬は原因である」という単純化した議論がかなり多く見られます。そのため、本書の後半は読む人によっては強引な論理展開と受け止めてしまいます。