「尺には尺を」の中に「美しい音楽は悪を善に変え/善を悪にかりたてる」という台詞がある。前半の「悪を善に変え」はいいとしても、「善を悪にかりたてる」というのはなんだろう? たとえばヒトラーのナチスとワーグナーの音楽の関係のようなことをさしているのだろうか?
美はしばしば私たちをあざむく、と私たちは言う。でもそうではなくて、美そのものが危険なもので、その危うさにこそ魅力がある、としたらどうだろう? 美が私たちをあざむいているのではなく、私たちのほうがそのような危険を愛する、危険でないものに美を見出さない(見出せない)としたら?
悪を善に変え、善を悪にかりたてる美の魔法。ーー両刃の剣、の魅力。