澁澤龍彦ファン必読
★★★★☆
故澁澤龍彦の夫人龍子(りゅうこ)さんのエッセイ。澁澤文学そのものには全く関係のない、たとえば、澁澤は「フランス文学者のくせに、日本料理や中華料理のほうが好きでした」(59頁)といった、ファン向けの情報が満載。中井英夫が、澁澤の死後、酔っ払って、「三島も澁澤もいないこの世なんて、生きていてもしょうがない」と龍子さんによく電話したという話など、文学者との交流にももちろん触れています。
おそるおそるページをめくった
★★★★☆
澁澤龍彦氏の2番目の奥さん、龍子さん(りゅうこと読む)なぜ同じ龍の字なのか。
二人は、同じ辰年生まれなのだそうである。
ぼくは澁澤さんのファンだから、別にプライベートは知らなくて良い。
著作の中には、ぼくが感性的に受け付けない澁澤さん自身のスノビッシュな
処も出てくるし、それはそれで、ファンだからといって作者を全面肯定する必要もないのだから
作者の口から語られる分には傷もあるんだと見逃せば良い。
しかし、それが奥さんとなるとどうだろう。
ぼくがファンである澁澤が壊れてしまうのではないか。
ぼくは、恐る恐るページを捲った。
杞憂であった。龍子さんはまるで渋澤さんのようなのである。
ぼくが最も好きな澁澤作品『高丘親王航海記』に関して、龍子さんは、
「澁澤のすべてを包み込んだ大輪の花」だと言う。
ぼくはこの作品についてはこう思っている。
「澁澤龍彦自身による澁澤龍彦入門」
微笑ましいの一言に尽きる
★★★★★
およそ澁澤龍彦の名を冠した書籍でこれほどに爽やかなものがあったろうか。
可愛らしいエピソードの数々に読んでいて自然と笑みがこぼれてしまう。
龍子夫人の温かな筆によって活写される澁澤龍彦の人となりは、サドやバタイユの翻訳で知られる暗黒文学者のそれというより、好きな昆虫遊びに夢中になる少年のよう。
もちろん書かれたことが全てではないだろうが、「こんな夫婦いいなぁ」とシンプルに思わしてくれる。
ゴシックな装丁も蟲惑的で、是非とも書架に飾りたくなる一品だ。
いや、結構おすすめ。久々に良い本に出逢えた。
非凡の妻は平凡
★★★★☆
本屋さんで手にとって読んで、思わず全部読みきってしまいました。
決して文章がうまいわけでも表現方法が豊かなわけでもないのですが、一般的な感性でとらえられた澁澤龍彦像が描かれていて、澁澤龍彦を少し身近に感じることができます。
不満だらけの素敵な本
★★★★★
たくさんの不満を持って閉じる本だった。
この本はよく出来たエッセイで、よく出来た恋愛小説のようだった。出来過ぎているので、どう読んでも、それが現実のものだとは思えない。故人に宛てた妄想のラブレターのようにも思えて来る。あまりにも美し過ぎる。日常を醜い恋愛の中で過ごすものにとっては、そこが不満だ。
澁澤龍彦の奥さんだと言うが、その文体は澁澤とは似ても似つかないものだった。
こちらのほうは、サラサラと流れる小川のせせらぎのような文体なのだ。その心地良い調べに、読むものはウトウトとさせられてしまう。最後の最後の「あとがき」までもが心地良く、まどろみの中で読み終わってしまう。読後の不快感は、うたた寝を起こされたときのような不快感なのだ。こんな心地の良いときを奪うとは何と無粋な、と、怒りで目を醒ます、あの不快感なのだ。
仕方ないので、もう一度、最初から読む、二度目は一度目よりも心地良くはないだろうと思うのだが、やっぱり心地良い、本当にこれは本なのかと思う。これは本ではなく音楽なのかもしれない。そうだとすれば目が疲れる分、音楽のほうがいいではないか。そんな不満を抱いて三度も四度も読まされる。こんなに何度も同じ本を読まされるというのに腹がたつ。不満だらけの素敵な本だった。