ピーターソン絶頂期、ジョージ・ムラツのお披露目作
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Petersonの生誕80周年の記念盤として待ちに待ったWalking The Line"完全盤"がCD化されました。もちろんUK盤ではなく、MPSの本拠であるドイツ盤です。
以前(1996年)、Two Originalsというタイトルで、同時期録音の姉妹アルバムAnother Dayと2in1形式で発売されていましたが、そこでは収録時間の関係でこともあろうに名演のJust Friendsが除外されるという信じられないコンピレーションになっていました。
で、私のように完全復刻待ち望んでいた者には感無量です。
録音は1970年11月10-13日で、Sam Jonesの後釜で当時無名のJiri "George" Mrazがbassを担当、drumsはRay Priceというこのときのセッションでしかお目にかかれない人。というように、数あるPeterson Trioのなかでも最もマイナーな組み合わせということもあってあまり知られていないかも知れませんが、少なくともここでのPetersonと当時26歳の新人Mrazの演奏は確実に水準を越えています。特に冒頭のI Love Youと#4の2人のスリリングなプレーには圧倒されます。#2や#6のような8ビートでもピーターソンは全く関係なくスウィングします。さすがです。#3や#7のようなバラードでは限りなく美しく...ラストの名曲All Of Youでは、ピアニシモからフォルテシモまで縦横無尽・変幻自在にピーターソンらしくやってます。
Most Perfect Soundを意味するMPSの録音のすばらしさは当時から定評がありましたが今回は、192kHz/24BIT remasteringとなっており、昨年10月に死去したMPSオーナーのHans Georg Brunner-Schwerがリマスタリングにスーパーバイザで名を連ねており、今回の一連のRemastered Anniversary Editionの9枚はいずれも彼に捧げられています。
1970年代当時、MPSの音は良すぎて、Jazzの陰影にそぐわないといった論調が多々あったような気がしますが、少なくともPetersonに関しては、MPSの音が一番しっくりくる気がします。また、Mrazのbassの音に関しては、それ以前のMPSのRay BrownやSam Jonesの音よりモコッとしていて好みが分かれるところでしょうが、(ある意味でVan GelderのBlueNote的で)個人的には気に入っています。思い起こせば、その後Pedersen(NHOP)と双璧を成す主流派BasistとなるGoerge Mrazの存在を世界中に気づかせたのがこのアルバムとAnother Dayでしたよね。
さて、ブックレットに話を移しますが、まず、当時のアルバムカバーの全デザインがきれいに写っています。この辺はさすがドイツですね。紙ジャケの日本に引けを取らない技術といったところでしょうか。MPS作品中でも特に秀逸な、Petersonの似顔絵をあしらったこのアルバムの微妙な色も見事に再現されています。(蛇足ですが、ビートルズのキャピトル盤の再現なんて「これが21世紀の米英の技術か」って呆れましたからね!)さらに、Reissue linernotesがドイツ語ではなく英語で入っています。
これでも不満な「やはり紙ジャケでないと」という貴兄は国内盤「ウォーキング・ザ・ライン(紙ジャケット仕様) [LIMITED EDITION]」を待つのも良いでしょうが。