最強の村上春樹評論
★★★★★
ここで書かれている村上春樹作品評論、村上春樹像は、既存のものとは全く異なるものだと思った方がいい。これまでの評論は、対外的にも大きくなりすぎてしまった村上春樹にどこか遠慮したものや迎合したものが多いからだ。読み進めればわかるように、著者は青春時代に村上春樹とほとんど同じ経験をしている。出身が神戸であり、大学時代に和敬塾に入寮もしている。それだから著者は、短編「蛍」やあの『ノルウェイの森』がどれほどもの悲しく美しいのかが、身に染みてわかるのだ。これほど村上春樹と重なるように時代を生き、彼が紡ぎ出す物語を自分のことのように引き受けてきた人もいないだろう。それは著者にとって苦しい作業だったかもしれない。けれど、読者としてみれば、追体験できない部分を著者がまず引き受け、それを美しい言葉で展開してくれているのだ。まさしくこれは最強の村上春樹評論といえる。