待望の網羅系成書の改訂版
★★★★★
約30年の歳月を経てようやく待望の改訂版が出版された。日本語のテキストとしては珍しい上下二冊での出版である(この分量で海外の成書と内容的に同等である)。網羅系の成書として今後は数多く引用されることだろう。
大きな改訂点は
・フォントが大きく読みやすい
・脚注の大幅増
・付録(線形代数以外)は本文に移行
・群論の追加
・計算化学の記述の大幅増
最後の2つのTopicsの寄与が大きくページ数増となった。
上巻に関しては、
・時間に依存する摂動論/光と物質の相互作用
・分子軌道の有機化学への応用:軌道対称性の保存 Woodward-Hoffman則
などが追加されている。
(軌道角運動量、水素原子)の問題を解く際に遭遇する(特殊関数が関与する)式の導出に関しての省略が目立つ点が改善されてないのが惜しまれる。参照誘導される成書が(原島, Schiff, Landau, Eyring)など旧版と同じで(初級者には)高度な本である。これらは完璧な記載がある古典的名著のPauling-Wilsonの「量子力学序論および化学への応用」を参照するのがよいであろう。他には、p.115の昇降演算子の記載でも規格化定数の導出の省略されており関連する角運動量の合成(Clebsch-Gordan係数)の扱いも自ずと軽く触れる程度となってるので他の成書で必要に応じて補う必要がある。
はしがきには「初学者にもわかるように」とあるが、30年前よりも多くの初級向けの参考書が出版されてる現在では一通り学んだ人が2冊目に読む本と考えるのがよいであろう。本書の引用文献に記載がないが、量子化学の初級用には
・マッカーリ・サイモンの物理化学(上)
をお勧めする。数学的な補遺も多く式の導出が非常に丁寧である。良質の多くの練習問題があり英語の回答集も出版されており、一通りこなせば読者を高水準まで引き上げてくれよう。