一切のごまかし・自己正当化・虚偽を退け、自分の立場も身分も省みず徹底的に真実を語り続けた良心の人トルストイ。大芸術家でありながら(自分の作品をも含めた)芸術を厳しく批判し、貴族でありながら富者を断罪し、キリスト教会も含め誰もかれもが戦争に傾いていたとき一人非戦論を叫んだ人。
《彼はわれわれの良心である。彼はわれわれが言うのを恐れていたことを言ったのである》だったか、正確な引用ではないかもしれないが、こんな言葉が本書の終わりのほうにある。本当にその通り。
ロマン・ロランは、「どんな仕事も大いなる存在からみれば小さなものである。大切なのは、その仕事にこめられたその人の愛や善意なのである」というテレーゼ・ブルンスヴィックの考えに全く賛成する人である。このトルストイの伝記においてもそれが生きていると思う。
トルストイ伝のあとに、彼が及ぼした影響についての記述があるが、これがまた感動的。