血の通った湛山論
★★★★★
頂くリーダーを観ればその国民の資質・成熟度がわかる。小泉、安倍、福田、麻生でよしとするわが日本は、その程度の国民なのだ、とも言える。だが、日本にも石橋湛山のごとき、最高水準の識見、人柄、胆力を備えた政治家がいた。これは戦後史の奇跡といってもいいけれど、日本国民の限界は、それに続く後継者を持てなかったし、育ててもこなかった。政治不信は政治家に投げかける言葉だが、それは国民が天に向かってつばを吐いているのである。
湛山は巨人だから、エコノミスト、文明評論家、思想家、政治家、さまざまの角度から論じうるが、著者田中秀征は政治家であったから、湛山の政治思想と活動を浮き彫りにして語ってくれる。さきがけ時代に自ら体験したであろう、高揚と苦悩があればこそ、本書は学者や評論家には望めない血の通った湛山論となっている。石田博英が中核となり、これに池田と三木が呼応して「反岸」連合を結成、劇的な逆転勝利を収める第二次総裁選の場面などは、本書の圧巻である。(石橋総裁誕生)
が何たる不運、彼は病に倒れ新内閣は二か月余りにして退陣となる。
歴史を読むのは、現在・未来により良い選択肢を模索するためである。石橋の「大日本主義との戦い」は、驚くほど勇気ある識見であったが、未だ我々はこの考えを体得していない。軍事(自衛隊海外派遣)、外交(日中・対米)、国民福祉を考える上で今なお有効な議論である。ひらたくいえば、次元の低いナショナリズムから解放され、石橋が説いた「小」日本主義を常識としなければ、日本国民はいつまでたっても一皮むけない。
文章は明解。冷静で抑制のきいた叙述、だけど著者の憂国の情がひしひしと伝わってくる名著です。これを契機に(私もそうだったが)より多くの読者が湛山を読むことになればいいなと思います。
この人がリードする国に住みたかった
★★★★★
完全雇用。平和こそ豊かになる道。福祉国家。隣国と仲良く。
理想どおりにいかない現実があるけれども、それでもこの人の言うことは普通の人の
願うこととしてすんなり入る。
この人の政治が実現していたらよかったのに。
政局の話題で疲れる昨今、目から鱗ばかりの内容だった。
今こそ再考すべき石橋湛山の哲学
★★★★☆
石橋湛山と言う政治家は、戦後に首相となったが健康上の理由で辞任せざるを得なかった。本書は湛山の政治哲学の本質を教えてくれる。
その本質は、日本人が明治維新以後に苦労して消化結実に努めた近代国家の核となる概念即ち自由の概念の、日本人としての深い洞察に在る。自由を愛するから人も自分も愛するのであり、合理的になれるのであり、現実的になれるのであり、死よりも生を選ぶのだろう。
著者がこの時期に湛山の政治思想を出版したのは理由があると思う。それは、東西冷戦終了後十数年を経た今日の世界環境が、いよいよ日本国をして自閉的態度から世界へ向けて能動的態度へと転換再生せざるを得なくなっている状況にあると認識し、自国の政治的態度を内外に明示しなければならないと判断したのだと思う。その政治的態度を形作る核として、湛山の政治思想を評価する著者もまた尊敬に値する。
孤高のリベラリスト
★★★★★
田中秀征氏の人物評伝には、氏の熱い思い入れが感じ取れる。
01年に「梅の花咲く」で、“決断の人・高杉晋作”を描き、この度は“孤高のリベラリスト”と言っても良い石橋湛山・元首相を世に問うている。私の父は生前、床屋談義的に政治を語る際、「湛山ありせば…」とよく漏らしていたが、本書を読んでその思いを強くする。
戦前・戦後を通じて最善・最高の政治家、それ故に孤高のリベラリストでもあった石橋湛山の人と思想に、少しでも多くの人たちに触れてもらいたいと思う。