随筆の神様、日本語の神様
★★★★★
元々、志賀直哉の小説も随筆、日記みたいなものだから、「随筆集」と言っても、小説とそう違うようには感じなかった。しかし、読後、才能の塊とはこういう人を言うのだなあ、と感慨新たにしたものである。冒頭「イヅク川」という作品が出てくる。1ページ余りのそれだが、読んでいると、終盤この話がどうやら夢の中の話だということに気付きだす。しかし、夢とは醒めてしまって時間が経つと、特に何てことの無い夢だと、夢を見た記憶はあるとしても忘れてしまっていて、上手く言語に載らないものだが、それを見事にやっている。そして読者は終わりにかけて、ははア、どうやらこれは夢だな、と気付く感じが、ちょうど夢から覚めかけの頃、誰しも感じるその感じを疑似体験することになる。「沓掛にて」という作品は「芥川龍之介論」になっているが、秀逸のそれで、これを読むとまるで、ついさっき芥川に会ったかのような感じになるほど、本人を良く捉えている。これを読むと評論の「芥川論」は読まなくて良いぐらいの優れものだ。とにかく、なんでもないような話を「作品」にしてしまうこの作家は、やっぱり「神様」だと思う。