オール・フォー・ユー
価格: ¥2,600
たった3年の間に寺井尚子は劇的な成長を遂げた。一見優雅なお姉さま系の稀な美女が、ひとたびヴァイオリンを構えると、獲物を狙う豹のような敏捷性と集中力で、音楽に深く激しく切り込んでいく。デビュー当初からもっていた、そうしたアグレッシヴな面に、恐ろしく磨きがかかり、しかもスケールが大きくなったのである。
98年12月にデビューして以来、早くも5枚目、しかもセルフ・プロデュースによる今回のアルバムには、アコーディオンの鬼才リシャール・ガリアーノが2曲「リベルタンゴ」「マルゴーのワルツ」に特別参加しているが、ここでの寺井と2人でのコンビネーションは見事で、特にパリ風のせつなさと情熱を秘めた「マルゴー」ではあのミシェル・ポルタルとのデュオに匹敵する興奮を生み出している。
ヴァイオリンの官能的な歌いまわしというのは、下手をするとポルタメントを多用しすぎて下品になりがちなものだが、寺井の場合は、どんなに曲趣が抒情的でも、浸りすぎずどこか厳然としているところが、とても好感がもてる。それが如実に出ているのがギターの宮野弘紀がアレンジしたドビュッシーの「月の光」で、しゃれたジャジーなアレンジながら、フレージングのディテールまでドビュッシーの原曲を生かしているのには脱帽。
シンセサイザー類をまったく使わず、生音にこだわった24bit96khzハイサンプリング高品位録音で、ライヴのような生々しい臨場感も、このCDの大きな魅力のひとつだ。(林田直樹)