世界最大の少数民族
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トルコにある絹の絨毯。
織目があまりに細かい作業で、
女が若いころにしかできないという。
そのことを取材しに現地へ向かった。
そこで見たものは、
知ることのなかった、
クルド人たちの現実だった。
会社勤めをしていた作者は、
その出会いによって、
会社を辞め、
クルディスタンへと足を向けた。
そこで知る事実は、
僕が、まったく知らないことだらけだった。
トルコにおけるクルド人は、
「山岳トルコ人」とされ、
民族として認められず、
差別と、圧政に虐げられていた。
ただ、そこに住んでいただけ。
彼らの間に勝手に国境が引かれ、
国が分けられた。
トルコ、シリア、イラン、イラク。
トルコでは、
トルコ語や芸能が禁止され、
イラクでは、
フセイン政権によって迫害を受け、
イランでは、
民族としてでなく、宗教的にもマイノリティーで、
虐げられていて、
シリアでは、
同様の差別がある。
作者は、
トルコにおけるクルディスタンの事を書いている。
トルコ軍や、警察の横暴、
クルド人同士のスパイの事など、
クルド人から、
真実を聞きだすことは難しい。
そんな彼らから、
ゆっくり、ゆっくりと、
聞きだしていく。
聞きだしていくというよりも、
彼らが話しだすのだ。
それは、
彼女が彼らと生活を共にし、
彼らの日常を知ろうとしたことが、
信頼を受けたのだろう。
書かれているクルド人たちが、
また、魅力的である。
一見ひねくれていたり、
憎らしい人も出てくるし、
すべてが良い人というわけでもない。
それでも作者が描く人たちは、
「今はどうしてるのだろう」
そう、思わずにはいられない。
ある町から町に移動しているバスが通りかかった小さな町。
トルコ軍による爆撃を受け、
屋根が吹き飛ばされた家々。
思わずカメラを向ける作者。
バスは、待っていてくれる。
バスから降りて、
さらに撮影をする。
撮り終わるまで、バスは待ってくれていた。
バスに同乗していたほかの乗客が、
降りるたびに彼女に握手をしてくる。
それは、
報道されることのない、
悲しく、恐ろしいクルドの真実を、
どうか、世界のどこかに知らせてほしい。
切ないほどの、溜息のような彼らの叫び声だと思う。
学者が書くような、
学術的なものではなく、
軽いエッセイでもない。
彼女にしか書けない言葉だ。
そんなことは、ほとんど絶対ないのだが、
もしクルド人たちが読めたとしたら、
ちゃんと彼らに伝えたい、
そんな思いに溢れた一冊。