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第四間氷期 (新潮文庫)

価格: ¥578
カテゴリ: 文庫
ブランド: 新潮社
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面白い ★★★★★
足からかいわれ大根が生えてきたり、名刺に自分の居場所を奪われてしまう様な安部公房の他の著作に比べ、群を抜いて読み易い小説だと思います。

緊張感を保ち続ける絶妙なストーリー展開や、医学や生理学の知識が裏付けする生々しい設定、人間存在の内面に食い込んで行く描写、詩的な感性といった安部公房の魅力も、遺憾なく発揮されています。

「未来との断絶」という本作のテーマや、作者の先見性も興味深いですが、私は純粋に読み物としての面白さを評価したいです。
彼の作品に宿命のごとくつきまとう不安や焦燥感が嫌でなければ、是非手に取って欲しい一冊です。
Speculative Fictionの傑作 ★★★★★
黎明期において「子どもの読み物」とバカにされたSFに対し、安部は早くから面白さに気付き好意的であった。
評論家ではなく実作者であった安部は、自らもSF的道具を用いた作品をいくつかものしたが、『第四間氷期』は(他の方のレビューにもあったが)過小評価されているように思う。
これは極上のエンターテイメントだ。

未来を予言する機械。暗殺者の影。ミステリを思わせる幕開けは、やがてとんでもない飛躍を遂げ、冷酷な終幕へ向かう。「今もまったく古びない」とはさすがに言えない(コンピュータの描写など時代を感じさせる)が、有無を言わせない圧倒的な大風呂敷の広げっぷりとその見事な回収は、今でも十分興奮させてくれる。
『第四間氷期』をJ.G.バラードと比較した評は、浅学にして知らないが、70年代にSF界を席巻した「ニューウェーヴ」の旗手であった初期のバラードに通じる、深い悲しみとどこまでも広がる諦観を、私は『第四間氷期』に感じる。不条理をただ不条理として眼前に投げかける作風で評価された当時の安部であったが、この作品に関してはそれを封印し、あくまでも首尾一貫したストーリーテラーに徹している(それがいまひとつ低い評価の所以なのかもしれない)。
これは美しい小説だ。透き通るような映像を喚起させてくれる小説だ。そしてなによりもエンターテイメントだ。
もしも映像化されるなら、音楽はサティかドビュッシーの陰鬱なピアノ曲であってほしい。強くそう思う。

最後に。安部公房をSFだっていうと顔をしかめる人がいるけど、『世界SF全集』(早川書房)にも安部公房の巻があるんだし、本人もSF好きだったんだから、べつにいいじゃない。
「肯定的な未来」に鋭い疑問を投げ掛けた秀作 ★★★★☆
データを入力するだけで、あるモノの未来・過去を見通せる予言機械(現代で言う人工知能に近い発想だが、推論エンジンやルール・ベースの機構の説明が無いのは時代の限界か)を通して、「知る事の意義・常識への固執・肯定的な未来」に疑問を投げ掛けたもの。

その名も<モスクワ1号>と言う予言機械をまず発表したのは旧ソ連。政治的プロパガンダが目的である。<モスクワ2号>は「未来は必ず共産主義社会になる」と言う。主人公の勝見は日本唯一(!)のプログラマで(作者はハード設計者とソフト設計者の区別が付いていない)、対抗して予言機械を作る。だが、政府から政治関連問題を予言する事を禁止され、ターゲットを個人に絞る。相手は中年男。男が情婦のアパートを訪ねる所を助手の頼木と尾行するが、アパートで男は殺されてしまう。情婦は自首するが、犯人はその場に居合わせた男の可能性もある。真相解明のため、死んだ男の神経データを入力して、予言機械上で男を甦らせる。男から胎児ブローカーの話が出るが、事件の状況が判然としない。そこで、情婦を予言機械で分析しようとするが、女は神経細胞破壊の状態で死んでしまう。勝見への脅迫電話。水棲哺乳動物研究の噂。そして、詐称電話による勝見の妻の掻爬。問題が錯綜しているようだが、題名から私は昔読んだ楳図かずお氏の漫画「半魚人」を連想した(大当たり!)。勝見は頼木を疑うが、頼木は義兄山本が所長を務める水棲哺乳動物研究所に勝見を誘う。そこは海底牧場を思わせた...。

予測を知った相手の行動の変化に応じて二次、三次予測、以下最大値予測が求まると言う論は面白い。全編サスペンス・タッチで細部の描写は相変わらず精緻。安部氏の特徴が出た作品で、結末部のメビウスの環的論争もそれなりに読ませるが、題名と予言機械を題材にした段階で結末は自然に導かれる。地球温暖化を先取りした感覚は光るが。
厳しく、そして温かく ★★★★★
 安部公房の作品の中でも、最も重要な作品の一つではないだろうか。
 ここに出てくる、“未来に裁かれる”という問題は現在も、というよりむしろテクノロジーの進歩によってきっと世の中の根本的な部分が変わりつつあるだろう現在だからこそ、非常にリアルである。なぜなら、例えば水棲人間が象徴するのが、未来の“人間性”だと考えれば、この小説はすぐにある恐ろしさを伴って現在の私たちに跳ね返ってくるからだ。もしも今、私たちが感動したり人間的だと感じていることが、未来においては糞の価値もなく嘲笑されるようなものでしかないとしたら・・安部自身が言うようにおそらく私たちにはそれを裁く権利がないどころか逆に、裁かれなければならないのだろう。
 私が、この作品を文学作品として素晴らしいと感じるのは、作者がそのような過去の価値にとらわれている人間の滑稽さやその虚しさを認識しつつ、それでもなお彼らをどう考えるかとらえあぐねているような印象を受けるからだ。最後の「地上病」にかかった水棲人間を、作者は後日「肯定的な存在なのか、否定的な存在なのか答えを出せないでいる」と言っている。実際、そこには私たちが生きるにあたってのとても重要な視点があるのではないだろうか。
 私は、ここにあるような安部公房の、厳しさを保っている(なぜなら「弱者への視線には常に殺意が込められている」から)、けれども温かい視線がとても好きだ。
SFと、入り組んだ謎 ★★★★☆
SFと聞くと子供だましの印象を持ちがちだが、
この作品では世界観を完成させており、違和感の入り込む隙が無い。
実に計算し尽くされた、文字通り“科学的寓話”である。
こういった世界も有り得るのではないかと思わせられる。
何重にも張られた難解なテストと、それに沿って
目まぐるしく移り変わる展開、全く無関係だと思われていた事象が
複雑に絡み合って、やっとタイトルへ辿り着く。
安部公房作品の中では誰が読んでもわかる部類。