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海と毒薬 (新潮文庫)

価格: ¥380
カテゴリ: 文庫
ブランド: 新潮社
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救いのない世界:遠藤周作の信仰について ★★★★☆
 太平洋戦争末期、人を救うはずの医療関係者達がいかに患者達を見殺しにし、そして捕虜を生体解剖死させるに至ったかを描いた作品。個々の登場人物のドロドロした内面と夜の海の不気味さの対比が非常に秀逸だが、時局や院内人事、出世欲や女の情念など様々な理由が組み合わさって、人々が不可避的に運命に流されていく様は非常にリアルだ。(現実の事件はナチスによるホロコーストのように非常に組織・機械的に行われたのではないかという他レビュアーの指摘もあるが、多分そっちの方が正しいのかもしれないけれども。)

 カトリック教徒の作者が描いたにしては、ここに描かれた全く救いようのない世界は意外だったが、不可避な暴力的運命の中で良心の呵責を感じる人間とさほど感じない人間達の内面がどちらもこってりと描かれている。そして、どちらのタイプの人間にも「救済」はこないのであった。

 人間イエスがいかに使徒達のエピソード捏造で神格化されていったかという過程を歴史研究に拠りながらドライに扱った随筆も残しつつ、それでもキリスト者であり続けた作家である。かなり相対的にキリスト教を捉えながらも信仰を捨てなかった彼の信仰観というのが僕は興味深い。そして、戦中派でもある彼がこの容赦の無い厳しい世界を描きながら、どこに信仰上の「救済」のポイントを置いていたのかというのは、実は本書の最後まで僕にはよく分からなかった。ただ、彼に取っては「救済」というのはそう簡単に達成されるものではなかったということだけは言えそうだ。作家は神の視点で個々の登場人物たちの内面と行いを静かに眺めている。この「眺められている」という感覚こそが彼にとっての信仰の核だったのだろうか。
過剰なドラマ性 ★★★☆☆
だいぶ前になるが、九州大学の生体解剖事件に関する本としては
東野利夫『汚名―「九大生体解剖事件」の真相』を読んだ。珍し
いのかもしれないが、その後に遠藤周作がこの事件を題材に小説
を書いていると知り、本書にたどりついた。

非常にテーマ性が強く、本作全体をどんよりとした雰囲気が覆って
いる。そして、登場する小道具や大道具に暗示された「裁き」「罰」
のイメージがいっそうテーマ性を際立たせている。そのテーマとは、
なぜ耐え難く残酷な生体解剖を起こしてしまったのか、日本人の倫
理観を問うという内容である。神の絶対性の前に自律的倫理をもつ
西欧と神なき日本人の倫理性の欠如が対比される。

正直にいうと、私は本作品がまったくもって好きではない。端的に
言えば、過剰に誇張されたドラマ性が鼻につくのだ。先述した東野
利夫のノンフィクションとされる本に到底及んでいない気がする。
東野自身が九州大学の関係者であることから当事者個人にすべての
責がいかないようにしているのかもしれないが、どうやら実際の生
体解剖事件は、捕虜を持て余した軍関係者、そして処理を打診され
た九州大学医学部の教授らが誰もそれに異を唱えることなく、ベル
トコンベアーで運ばれていくように無機質な処理が行なわれたよう
である。そこにあるのは、当事者間の責任の押し付け合いの結果と
して起こった、はたまた権威主義的人間の倫理観の破綻なのである。
そこには個人のドラマ性や欲望、部内の権力争いといったものはな
く(『海と毒薬』では進んで生体実験を行なおうとする人物が複数
登場する)、人々の無関心さだけがあり、そうしたところから残酷
にたどり着いてしまう空恐ろしさを強く感じさせた。

本書は小説なので作りこまれた演出や装飾がなされているが、これ
が事件そのものがもつ普遍性を著しく損なっており、また事件を著
者の考えを表現するための節回し(手段)にしている印象を受けた。
小説なのだからいいだろうという反論もあるだろうが、こうした理
由から私はこの作品が好きではない。
倫理観 ★★★★★
遠藤周作を語るならば、
そこには必ず神がいて、
倫理的なメッセージを伝える作品が多い。
本書は、本当にあった事件を元に
フィクションであるが、
ノンフィクションに小説の要素を加えたものである。
明るい、暗いなどとしか言えない若者に
是非読んでいただきたい。
何が良くて何が悪いのか判断できない若者たちへ。
信仰的要素の深い河のような作品と比べてしまえば、
文学的な要素は薄れるが、
知らないですましている身勝手な大人にならないように。
切なる希望も託されていると思える作品。
読者に投げかけられた問い。 ★★★★★
書き出しからすっと引き込まれてしまいました。
過去の消し去りたい記憶と共に生きている医師の人生そのものへの倦怠感。
一人になるたびに甦り、甦らせるために一人になってしまう、カビのように頑強にこびり付いた記憶。
戦時中、兵士は罪の意識を持つことなく人を殺し、犯しました。
戦後、その記憶を抱いたままひっそりと暮らしてゆく兵隊と、生体実験を行った医師。
爆撃で死んでいった人たち。薬が足らず医療不足の中で死んでいった患者。
放っていても死んでしまうのなら、苦しむことなく実験台になることとどういう違いがあるのか。
人間の生命、尊厳について、著者は問いを発していると受け止めました。
著者は読者を信頼し、自らの問いを読者に委ねたのではないかと思います。
罪の意識の不在、それを拒絶することができないという同罪 ★★★★☆
遠藤周作氏の本ははじめて読みました。戦時中に行われた生体解剖事件という重いテーマを書いた作品です。

社会的な罪や自らの保身を考えることで自身の行動を規制することはあっても、自分自身の良心の呵責により罪の意識を感じることができない人々が、生体解剖という犯罪を淡々と犯していく不気味さが禍々しい印象を受けます。

さらに、罪の意識はあるが犯罪を断る力を持たず、遂にはずるずると生体解剖に参加してしまい、精神的に破綻をきたしてしまう主人公、勝呂医師の心情についても書かれています。

個人的に一番ハッとしたところは、第二章 裁かれる人々 の医学生の記述です。生体解剖に参加し、最後まで罪の意識を持つことのできなかった戸田という人物の生い立ちが書かれているのですが、周りに認められて尊重されるために狡猾な考え方をしていた少年時代の戸田が、自らの罪の意識の不在に目をそむけながら、徐々にエスカレートしていく様子が描かれています。

この小説は罪の意識の不在という問題提起がなされているのですが、そうした人々に罰はあるのかというような部分までは触れられていません。解説の部分で述べられているように海と毒薬の続編が出版されていて、そういった記述があればと思いました。