遠藤周作だから達成できた
★★★★☆
『白い人』...第二次大戦中のドイツ占領下リヨンでのナチ拷問の場に、神の必然性、そしてそれを信ずる者から発する英雄的精神と
犠牲的精神を疑う主人公を据えて破壊的衝動と埋めることのできない虚しさを描く。
特徴として、故意に歪曲させられた主人公の情欲が向かうべき異質さを何か白昼夢めいて表現している。結果として醜いが、過程として
夢幻的な様相を帯びる。著者はそれを知っている。性質を。。
ふみくだかれた灰から一層、火の燃えあがる......つかめそうで、つかめない遠藤周作の神への想い。考えさせられる芥川賞受賞作。
『黄色い人』...ここで描出した日本人の青年像は、そのままキリスト教を信仰するカトリック作家・遠藤周作にとっての矛盾にも
なるのだろう。思慮が足りないわけではない。いやむしろ考えすぎだ。しかし、行動はついてこない。決断が生まれない。その悲劇。
絶対的な神を持つことによる救いと、反対に苦しみ。
絶対的な神を持たないことによる苦しみと、反対に救い。
決して両立しえないものへの追求心は自らを解放することでもあったのではないか。
テーマはもちろん深淵だが、不思議と難しさを抱かせないのは何でだろう?ポピュラーに押し下げたのではなく、ポピュラーへ昇華
できたのはこの人だからだろう。この人が成し遂げた感性は忘れちゃいけない。
宗教の矛盾
★★★★☆
遠藤周作が求め続けたテーマ、神の存在の意義、宗教観の相違からなる思想の違いなどの表現が顕著な作品です。難しい事のようですが、簡単に言えば、たぶん信仰心とは全く逆の人間の醜さ(白い人)、欧米人と日本人との思想の違い(黄色い人)、という事でしょう。
白い人では、主人公が禁欲的な教育(これが神に通じる純粋な教育という事でしょうね)を受けながらも、被虐の喜びに浸ってゆき、ナチスの侵攻から同胞を裏切るという筋の物語です。その同胞の一人は主人公とは相反する、敬虔なカトリックで、最後まで信仰心を捨てない純粋な少年なのです。純粋さと醜さ。この二つの対照に、神とは一体何なのか? という問いが含まれているような気がします。また、結局その少年は自ら命を絶ってしまうのですが、そこには信仰心の深さには割に合わない、不条理なども描かれています。
黄色い人は、宗教の掟を破って神父としての地位を奪われた一人の男が、神の存在からの苦しみを、日本人の無宗教による罪悪感のなさ(これは私にはよく分からないのですが)に救われる、という話です。
この二つの作品は両方とも人間の思想や宗教観に関する事が描かれています。私は宗教に関しては無知に近かったので、二回三回と読み返してそれでやっとある程度の意味を掴めたといった感じでした。読み応えはあってなかなか面白い作品なのですが、読む上で少し知識がいるかもしれません。その点を考慮して星を一つ減らしました。宗教に全く興味がないという方は少し読みにくいと思います。
人間の醜さの極北
★★★★☆
『白い人』と『黄色い人』のふたつの短編からなる短編集です。『白い人』というのは白人のことで、第二次大戦中のフランスを舞台にして、醜い容貌故にのけ者にされていた青年がナチスの侵攻を機にナチスの協力者となり、同胞を迫害するという話。『黄色い人』というのは日本人のことで、やはり第二次大戦中の物語で、キリスト教会に通っていた青年が白人神父を裏切るという話。
とにかく読んでいて陰惨になる小説です。『海と毒薬』や『沈黙』と同様、どこにも救いというものがありません。しかし、そこに遠藤周作の誠実さがあるのでしょう。ここに描かれた人間の醜さというものを自身の問題として真剣に捉えているからこその妥協のなさというものが強く感じられます。
日本人の私を救った作品
★★★★★
キリスト教作家遠藤周作が、ぶち当たるべくしてぶち当たった壁。
それは人種差別。
この作品は、戦争時代を舞台にしています。
「ヨーロッパ人同士が戦争をしても、戦争が終われば白人は白人どうし、うまくやる。」といった、趣旨のせりふには大きくうなずいてしまいました。
なぜなら、私も何度も人種差別に遭遇しているからです。
私がフランスに言ったとき、ひどい人種差別に何度も遭いました。
イギリスでも、ひどいものでした。
「国際化」という言葉のきれいごとに、愕然としました。
遠藤周作の時代から、日本以外の国の時代は止まっているのでしょうか?
いいえ。
日本にいるから、普段分からなかっただけなのです。
そのあと、すっかり外国人恐怖症になってしまった私でしたが、この
『白い人・黄色い人』を読んで、なぜか救われたのです。
この『白い人・黄色い人』にも救いはありません。そして私にも。
しかし、同じことを何十年も前に考え、珠玉の作品に残していた作家の存在と作品を知ることが、私を救ったのです。
今では、日本人であることに誇りを持っています。
人と信仰
★★★☆☆
遠藤周作入門。
人種や信仰が絡んだ、人間の深いところに
ずるずると入ってゆくじとっとした作風だなあと思った。
戦争を通じてか、荒んだ登場人物の荒みっぷりが印象的。
白い人はナチスに寝返るハーフの人が、
神を信仰する者を残酷に試す話。
黄色い人は、白人と日本人の感覚の違いを、
空襲を受ける近畿を舞台に描かれている。