人物描写がとても丁寧なのでストーリーに深みを感じる。
★★★★★
先代社長から引き継いだ粉飾決済が公になり、刑務所に入り、出所後は下町のバッティングセンターを経営しながら細々と暮らしている主人公が、思いがけないトラブルに巻き込まれていく話。
単純にハードボイルドやエンターテイメント作品とするならば、人間描写を単純化したほうがスッキリとしたものになりそうなところ、藤田さんの登場人物の描き方がとても丁寧で、その結果、ただのハードボイルド、もしくは、ただのエンターテイメント作品ではなく、深みのある文学作品になっている。と感じた。
藤田さんはきっと、ストーリーを書いているというより、ストーリーを通じて人間を描いているのではないだろうか。
ストーリーはもとより、人間の機微を楽しめる素晴らしい作品。
時代遅れのバッティングセンターと共に生きる中年男のまったり感が非常にいい
★★★★☆
主人公は57歳の時代遅れのバッティングセンタの経営者。以前は大手スーパーマーケットの社長をやっていたが、不正経理が発覚して、投獄された。家族、地位、お金を全て失った。しかしたまたま残った古びたバッティングセンターをやっていくのに、小さな幸せを感じている。東京郊外の古びたバッティングセンターとそこに集まる人達がみんないい。まったり感がとてもよい。枯れるにはちょっと早く、かといって、もう一花咲かせようと思わない。50代男性の生き方を教えてくれるようで非常に良かった。私自身50代の中頃であり、共感できる部分が沢山あった。まったりと生きていくって、若い時には考えもしなかったが、小さな幸せって、この歳になると結構大切なんだと実感した。
身の丈
★★★☆☆
何か深い感銘を覚えるとか、頭に新たなシーンが刻まれるという話ではないのだけれでも、読んでいて引き込まれるものがある。
まず、設定。舞台はバッティングセンターであり、日常目にする風景だ。しかし、バッティングセンターで日常的に過ごした人は少ないはずであり、その意味では非日常的なものを感じる。
そして、主人公の生き方。身の丈にあった生き方、性に従った無理しない生き方。それも、もともとは自分の限界を越え、ストレスを抱えながら仕事をして、ある契機を境に行き着いた生き方。しかしながら、決して世捨て人という訳ではない。自身の感情に逆らうことなく熱くなるときもあり、人との繋がりも疎かにしない。そして、経済的には豊かな方である。
ある程度、サラリーマンを続けると、目指してみたい姿の一つとして頭に浮かんでもおかしくない生き方だ。肩に力が入っていない身の丈にあった生き方には非常に共感を覚える。しかしながら、繰り返しになるが、何か深い感銘を覚えるとか、頭に新たなシーンが刻まれるという話ではない。