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多情多恨 (岩波文庫)

価格: ¥7,600
カテゴリ: 文庫
ブランド: 岩波書店
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読まされる快感 ★★★★☆
物語の展開の退屈な事といったらない。妻がなくなった。この一事で前半をひっぱる。作家に普通の作家もないが、やはり、腕があるのだろう。ぐいぐい読める。そして、不快感はない。しずかに、しっとりここちいいのだ。
軽妙洒脱 ★★★★★
 尾崎紅葉と言えば、知らない方も多いかと思いますが、純文学が私小説中心になる前の時代に活躍した文人ですね。それまで自然主義文学などを中心に読んでいたので、その表現の豊かさに驚きました。ジャンルとしては恋愛に近いかもしれません。
 純粋に亡くなった妻を思い続ける主人公の鷲見が、友人の家に下宿する事になり、その友人の妻の献身的な立ち働きに自分の元の妻の姿を重ね、思いを寄せていくという話なのですが、筆者の重視したところが主人公の鷲見の純粋な心情にあって、浮気や不倫といった所に重きが置かれていないというところが斬新でした。これが自然文学や、現代の大衆文学のミステリーにされてしまうと、泥沼の恋愛の様に描くのでしょうが、そのありふれた手段の見られないこの小説に驚きました。つまり、さわやか、とまでいかないかもしれませんが、わりと軽い感じです。
 文体もその時代特有の軽妙さが見られて百年近くたった今でも十分楽しめます。明治の文化的な洒落た調子ですかね?
 純文学なんて難しくて面白くない、と言う人は多いですが、そんな方にこの作品をお薦めしたいです。
THE尾崎紅葉 ★★★★★
 『多情多恨』のなかで女性の衣装を描写するところがいくつかありますが、紅葉は実に細かく描写しています。このあたりは西鶴の衣装描写にそっくり。さすが硯友社が元禄文学を手本にしただけあります。また主人公の柳之助が亡き妻を偲んで涙に暮れるのは『源氏物語』の影響だといわれていますが、なるほど、柳之助は泣き通しです。いつも泣いている。
 私は読んでいて、泣いている柳之助よりもむしろ、柳之助の無頓着さ、ずうずうしさ、その友人葉山の寛容さ、そして葉山の妻お種の時に優しすぎる態度にイライラさせられました。
特に柳之助。この男は私に言わせれば実に図々しい男です(笑)。そして実に無頓着な男です。友人の家に住み、それまでは大嫌いだった友人の妻お種の優しい態度に接するうちにいつしかその妻に恋心を抱くのですが、自分ではそれに気づいていないようです。
亭主が出張でいないときに「いつまでもやっかいになりたい」とか「病気でもしたら貴方にお世話してもらうつもりです」と言ったり、「お種さんが自分の寝付くまで枕元についていてくれるなら満足であろう」などと願ったり、腹が立つほどずうずうしい。亭主が出張中、柳之助が悶々として眠れず、ついには夜中にお種の枕元へ忍び込むにいたっては「柳之助、おまえなんちゅうやっちゃ!行動する前に回りへの影響を考えんかい」と小説の中の柳之助に怒る私でした。そう思って読んでいるところへ、あやしいぞと危険を察知した舅が登場したときにはほっとしたりして。
 明治29年。日清戦争に勝利して軍人が威張っている時代に紅葉はこの小説を書いたんですね。当時にしてはめずらしい口語文で書かれていますから読みやすいです。
ところで、この話に続きがあるとしたら、その後どういう展開になっていったんでしょうね。読者の想像をかきたてる終わり方です。
また、関係ありませんが岩波文庫の表紙のデザイン絵が艶やかです。
人情あふれる紅葉の傑作 ★★★★★
主人公、鷲見柳之助は最愛の妻を亡くしたばかりで、悲しみに沈んで泣いてばかりいる。この泣きようが人並み以上で、現代の我々から見てもかなり変。しかし、まじめ一徹で偏屈で頑固で陰気な彼にも朋友がいる。

その朋友の葉山誠哉が実によい。終始明るく、偏屈の主人公の言動にも許容し、時にまじめに意見し、時に冗談っぽく引き立てて、この小説はほとんど葉山のキャラクターで持っているようにも感じる。葉山と鷲見のやり取りを読むだけでも楽しい。

文体は言文一致体です。「金色夜叉」は文語調でややとっつき難い感がありますが、この「多情多恨」はぐっと読みやすいです。当時としても言文一致の初期の頃だと思いますが、無理なく自然で洒脱です。紅葉の文章力の冴えがあります。
明治中期の世俗・人情が楽しめる一遍だと思います。傑作。