その朋友の葉山誠哉が実によい。終始明るく、偏屈の主人公の言動にも許容し、時にまじめに意見し、時に冗談っぽく引き立てて、この小説はほとんど葉山のキャラクターで持っているようにも感じる。葉山と鷲見のやり取りを読むだけでも楽しい。
文体は言文一致体です。「金色夜叉」は文語調でややとっつき難い感がありますが、この「多情多恨」はぐっと読みやすいです。当時としても言文一致の初期の頃だと思いますが、無理なく自然で洒脱です。紅葉の文章力の冴えがあります。明治中期の世俗・人情が楽しめる一遍だと思います。傑作。