やはり白眉は下巻の展開
★★★★★
ジェイムズ自身も会心の出来だという、第42章。この内的独白に辿り着くために、この小説は読みすすめるべきだ。といってものめり込めば、ここまで来るのは決して困難ではない。ともあれ、ヒロイン(イザベル)が自分の夫(オズモンド)を分析するという、ただそれだけのことだけで、これほど手に汗握る迫力が生まれてしまうというのはいったいどうしたわけか。オズモンドの俗物像――世間を軽蔑しているかに見せて、もっとも世間に対する評価に敏感であるという性格――は、今を生きる我々とそう遠い存在ではない。第42章は、私にとって鋭利な人間描写を読みすすめる快感と、それが読む自分に跳ね返ってくるような不安とを同時に体験させる充実したひとときであった。