もう一人の自分の命ずるままに
★★★★☆
「主人公のいない場所」という題にまとめられた短編集は、いっぺんが4ページほどのとても短いものが24編。短いながら、生がずっしりと重たい。どこかしら、理不尽で、不条理で、死の臭いがはしばしに漂う。本来、生は常に死を傍らにするものだということを思い出さされる。
「渡鶴詩」「雀遺文」「アズマヤの情事」「ジーンとともに」の中編は、私にもぐっと読みやすいものであり、物語に引き込まれた。
人間が発展の名の下に自然破壊を進める時代の野性に生きる不条理や理不尽は、「渡鶴詩」や「ジーンとともに」で痛切にあらわされる。
しかし、「雀遺文」でも「アズマヤの情事」でも、理性という壊れた本能ではどうにも得心できぬ、あの燃え立つ衝動、自分の中にあるもう一人の自分の声を聞かされることでは共通である。この「雀遺文」が私は好きだ。
確かに単なる擬人化ではない。その上、単なる自然観察報告でもない。人間とはまったく異なる肉体を持ち、精神を持つ存在としての鳥。その異なるという感覚がクリアに体験されるような、不思議な文章だった。
2008年、誰かニジドリを見ただろうか。