検屍官ケイ・スカーペッタシリーズ第4弾。10年前に女性テレビキャスターを惨殺したロニー・ジョー・ワデルの死刑執行を巡る騒動で幕をあける。罪への罰という正義と、死刑反対運動とが争うなかで、クリスマス近い冬の日についに刑が執行された。ちょうどその晩、10年前のワデルの犯罪とそっくりの殺人事件が起きる。
ワデルが残した言葉が不気味に響く。「私を殺してもけだものは死なない。そいつは暗闇を好み、血と肉をむさぼる。兄弟たち、もう大丈夫と思ったその時から、注意し始めないといけないぞ。1つの罪がまた別の罪を生む」
ワデルの死後、彼がよみがえったかのように連続殺人が起きる。数日後ワデルと最後までコンタクトを取っていた占い師が殺され、現場からワデルの指紋が検出された。10年も刑務所にいたワデルの指紋がなぜ現場に残されていたのか。処刑されたのはワデルではなかったのか? ワデルのすり替えがあったなら、当局が絡んでいるはずだ。連続殺人はケイの周囲をも巻き込み、ついにはケイ自身が容疑者としてマスコミにたたかれるはめになる。
容疑者と刑事というぎこちない関係がケイをイライラさせながらも、嫌疑を晴らすために奔走する殺人課刑事のピート・マリーノ。そしてFBIのベントン・ウェズリーが脇を固める。いまや17歳に成長したケイの姪ルーシーが、頭脳明晰ぶりを発揮するのも今後の展開を期待させる。4作目にしてなお衰えを知らず評判の高い本書は、1993年CWAゴールド・ダガー賞(英国推理作家協会最優秀長編小説賞)を受賞している。(木村朗子)
「シリーズ」の醍醐味
★★★★★
現在、続けてコーンウェルの作品を読み直しているので、
前作がどのような状態で終わったのか、はっきり記憶している。
シリーズを最初から読まないと分からない人物がいたり、
また、「続き」の部分もある。
「サザ○さん」のように、時間が止まるわけでなく、
前作との間に流れた「時間」が存在し、
まるでケイやマリーノをはじめとする登場人物が、
どこかで本当に存在しているのではないかと錯覚すら感じる。
もちろん、前作での出来事は、随所にかいつまんで挿入されているので、
一気読みには邪魔臭いが、「年末の恒例行事」の方には、
願ってもない、親切だと感じる。
結局、真犯人は逮捕されなかった。
その犯人はシリーズ・続編に記されることになる。
このシリーズをリアルタイムに年1回だけ読み進めている方もいらっしゃると思うが、
それだけでも、かなりのストレスになるのではないかと考えてしまう。
ケイは、真実追求のため、仕事に責任を持ち、全うしていこうとする。
そして、必ず登場するのが足を引っ張ろうとする上司や部下。
現実の世界でそれほどいるのか?
そして、後半部。
このシリーズに欠かせない人物が登場。
アナ・ゼナー。
Dr.ゼナーも登場早々、かなりの高齢のような気がする。
ケイのように、地位も知識も経験もある女性を主役とするときには、
やはり、「検死官」での40歳の必要があったのだろうか?
では、その当時、ルーシーが子供でなかってもよかったのではないか?
なんて、勝手な想像をしてしまう。
ケイの人間的魅力で読ませる、CWAゴールド・ダガー受賞作
★★★☆☆
ケイ・スカーペッタを主人公とする、日本でも大人気のパトリシア・コーンウェルの<検屍官>シリーズの4作目。
英国におけるミステリーの頂点、「CWA(英国推理作家協会)賞」の’93年度ゴールド・ダガー賞(最優秀長編賞)受賞作である。
アメリカの作家がゴールド・ダガー賞を受けるのは極めてまれなことで、これは快挙らしい。
10年前、人気女性ニュースキャスターを惨殺した死刑囚ワデルが処刑され、検屍のため遺体がモルグに搬入される。その夜、グロテスクな傷を負った少年が瀕死の状態で発見されたのを皮切りに、一連の不可解な殺人事件が起こる。そして現場から、死んだはずのワデルの指紋が検出される。これらの殺人を犯したのはワデルなのか。では、処刑されたのはいったい誰なのか。読者は冒頭から圧倒的な迫力でストーリーの中に引きずりこまれてしまう。
また、検屍局の女性スタッフが殺害されるに及んでケイ自身に殺人の嫌疑がかかる。自らの身の潔白を証明するためにも、ケイは、姪のルーシー、FBI心理分析官ウェズリーや指紋の専門家バンダー、弁護士で学生時代の恩師グルーマンたちの助けを借りながら、10年前の事件からさかのぼって検証を始める。
終局の解決段階で、ある重要人物たちに容疑をかけるくだりは、やや強引な印象を受ける。また、ストーリー展開が、少々通俗スリラーっぽい感じは否めない。
しかし、それらを補って余りあるほど、本書は、緻密なIT技術・科学捜査の先進性・合理性とケイ自身の人間的魅力、そして不可解な謎と論理的な推理で読ませる、シリーズ屈指の傑作であった。
コーンウェル・スタイルの完成度の高い作品
★★★★★
ケイ・スカルペッタ検死官シリーズはミステリーにしては珍しく何度も読み返したくなる作品だ。その中でも、この本は、これまでの中でコーンウェル・スタイルが一番確立して、花開いたものだと思う。
速い話の展開のために盛り込まれた溢れるばかりの問題の数々。死刑の倫理感に触れるかと思えば、ケイの姪ルーシーはUNIXをやさしく手ほどきしてくれ、10年前の事件と類似した事件が起きて、怪しげな知事や弁護士が乗り出してきたり、刑務所のモラルの問題が扱われながら、ケイの部下が殺害されケイの立場が危うくなったりと、とてもゆっくりなど読んでなどいられない。
こんな中にも絶えずケイの生活、人間関係、心の動きなどが描写されていて、ケイの息づきが聞こえてくるようだ。ケイの寸暇を惜し!んで働く仕事に対する姿勢は、読者のやる気をも呼び起こしてくれる。
そして一番驚くことは、これら盛りだくさんの内容が最後には一つの結末にすっきりと収まってしまうところだ。この作品は次への布石の意味もあり、楽しみはまだまだ続く。