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猫町 他十七篇 (岩波文庫)

価格: ¥518
カテゴリ: 文庫
ブランド: 岩波書店
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詩人の意識の秘密 ★★★★★
 萩原朔太郎の小説(風散文詩)、散文詩、随筆から抄録した18遍を収めた小品集である。朔太郎の詩は文庫本でも普及しているので、手軽に読むことができるが、詩以外のジャンルではそうはいかない。収載作は、朔太郎が30代末から50代にかけての作品である。朔太郎後期の仕事であり、あの『月に吠える』『青猫』の詩人が、それ以降どのような展開を遂げていたのかが分かる。
 かつて朔太郎の詩集を愛読したことのある私は期待を持ってページを開いた。作品のほとんどは初めて読むものであったが、なぜか懐かしい気がした。やはり時代性の刻印は拭いがたく、アンティークな物品をタンスの奥から取り出して鑑賞するような感じがあった。
 しかし、書名ともなった「猫町」は、ムンクの「叫び」に通じるような印象があった。慣れ親しんだ世界が何かをきっかけに一瞬にして異貌を呈し崩壊するプロセスが、異常にリアルな心理的細部をもって描かれる。詩人の意識の秘密に触れたような気がした。
 選者は、詩人・作家の清岡卓行氏。朔太郎の伝記的な背景にも触れる詳細な解説がつく。氏は、「猫町」の成立が軍国主義に染まっていく時代と深く関わっていることを指摘されていた。大いに啓発されるが、「猫町」が朔太郎の詩同様に今の読者にも魅力があるのは、やはり近代的自我の陰画が見事に映し出されていることにあると思う。
密度が濃い ★★★★☆
ページ数が非常に少ないのでさくっと読めましたが、内容の密度は濃くて満足。

表題作の「猫町」が一番楽しめました。違う道を通って既知の場所に出てもすぐにはそれと気づかない感覚の経験は私にもあるので非常に共感できます。全体的に漂う幻想的な雰囲気と、原因の顛末を明かしながらも理屈では一蹴できない余韻を残しているところがまたよし。

殆どが散文詩的な作品ばかりですが、そのなかでは「坂」の冒頭がよかったですね。
坂上の境界線の先に広がる浪漫はこれまた私もよく感じるので共感できるのですよ。それだけに結びの錯誤が哀しい現実感を嫌というほど伝えてきます。
猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫。どこを見ても猫ばかりだ ★★★☆☆
自分が萩原朔太郎について知っていること。
・詩人。「青猫」「月に吠える」を書いた詩人。教科書に載っている作家。
・芥川龍之介のお友達。
・「蕁麻の家」を書いた人のお父さん。
――にトライ。

第一部「猫町」「ウォーソン夫人の黒猫」「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」…創作風短編
第二部「田舎の時計」「墓」「郵便局」「海」「自殺の恐ろしさ」「群集の中にいて」「詩人の死ぬや悲し」「虫」「虚無の歌」「貸家札」「この手に限るよ」「坂」「大井町」…SS
第三部「秋と漫歩」「老年と人生」…短い随筆
これらをチョイスして並べた編集者の解説(すごく長い)

萩原朔太郎の散文詩、短編やSSをある角度で集めた作品集。
散歩の途中で道に迷い見知らぬ町にたどりつく。よく見知った町が裏返るような未知感で満たされる「猫町」。知覚ミスなのか幻想なのか?
ある日から突然に部屋に出没する「黒猫」に怯える「ウォーソン夫人の黒猫」。その異常さに誰も気付かない。私の話を無視してないでこの猫の不自然さに気付いて!
日常に忍び込む違和感にぎょっとさせられる。一瞬の狂気なのか。オカルトなのか?
長々と書かれた解説がまた興味深いです。けして生前豊かではなく親の脛かじりだった作者。壊れた結婚生活と作家としての悩み。文壇に上がるほどの著名な人物なのによく知りませんでした。現在だったらこのオカルトじみた作品や現実と狂気のフラッシュバック、精神面の脆弱性はよく理解されるような気がするのですが。文学作品にしてはちょっぴり厨二風味で読みやすいです。実は猫沢山の「ビバ!猫天国」を期待したのですがいい意味で期待はずれでした。

ウォーソン夫人の逆切れ、怖かった。
ひとがひとにみえない ★★★★☆
表題作が菅野覚明『神道の逆襲』や春日武彦『不幸になりたがる人たち』に引用されているのを読んで、原典をようやく手に取った。編者の解説が3分の1ぐらいのボリュームがあり、これが初心者にとって非常によかった。
清岡は、萩原が夢見ていた美しい近代の幻想が、全体主義と軍国主義が席巻する時代において、群集によって「無残に破壊されるかもしれないという絶望に近い思い」を読み取る。
それぞれの多様な読みを読み比べることが面白かった。私などの思いが及ばぬほど、深い。

その他も、萩原が親交のあった芥川が出てきたり、ニーチェやショーペンハウアーに触れていたり、昔の東京の景色が現代的な都市のイメージをもって語られており、それぞれ興味深い。
中でも、「老年と人生」が、性欲に振り回されなくなった自由さをあげて、加齢を肯定的に書いているところがよかった。老年を楽しむために、まだまだ修行不足だと言いながらも。
「鉄筋コンクリート」を「虫だ!」と思う感性のすごさ。 ★★★★★
萩原の思想の神髄を<新しき欲情><絶望の逃走><虚妄の正義>から読み取れば読みとるほど、『猫町』という一見大したことのなさそうな話は、痛烈な重みをもった真実なのだと思う。しかし、家では娘と酒の席でおちょこを揺らし、感慨深くマンドリンをかき鳴らしたり、書斎の机の引き出しに、秘密のマジックの道具をしまい込んで、私かに練習をしている。そのこどもらしい萩原の姿も、また真実の朔太郎である。本書は、「この手に限るよ」のような朔太郎のおちゃめな部分をかいま見ることのできる貴重な短編集だと思う。普段矢鱈に不幸だの、病気だの言われている朔太郎だが、神経質で臆病な彼は実に子どもらしい伸びやかな感性を持っている。
「およぐひとのてあしはななめにのびる」という詩を思い出!す一冊である。