佳作の揃った楽しい短編集
★★★★☆
本短編集は、カーの創造した3人の探偵、
フェル博士、ヘンリー・メリヴェール卿、マーチ大佐
の活躍する作品が収められており、
大傑作という作品はないものの、
どれも個性的で楽しめる作品揃い。
カーがお好きな方なら特にオススメの短編集です。
以下、各編への短いコメントを記しました。
【パリから来た紳士】
さすが表題作という感じの作品。
莫大な遺産を残した老婦人のもとから遺言書が紛失、
意外な隠し場所とは…。
ラストにミステリ好きなら思わずニヤリの趣向も凝らされています。
【見えぬ手の殺人】
誰も近づく者のない海辺で見つかった絞殺死体。
意外な犯行の手口が。
(人によってはバカミスと見る方もいるかもしれませんが、楽しめます)
【ことわざ殺人事件】
特別捜査班の張り込み中の射殺事件。
不可能状況だが、剥製の紛失と、むしりとられた苔がヒントに。
【とりちがえた問題】
屋根裏部屋と島の中での密室殺人。
ユニークなトリック。
【外交官的な、あまりにも外交官的な】
スパイが主人公の作品。
並木道での女性の消失事件を描く。
【ウィリアム・ウィルソンの職業】
職業は一体何?ということで、
奇妙な仕掛けの凝らされた作品。
その種明かしでも楽しめますが、
最後はさらにどんでん返しがあります。
【空部屋】
空き部屋から大音響の音楽が聞こえ、
それを止めたら、今度はその部屋から死体が
発見されたという奇妙な事件が描かれています。
【黒いキャビネット】
ナポレオン三世の暗殺に絡む、歴史推理。
ラストに意外な名前が。
【奇蹟を解く男】
誰もいない回廊で死の予告が囁かれ、
泊まった密室状態の部屋ではガス栓が開けられていた。
命を狙われる女性の運命はいかに…。
「パリから来た紳士」――「妖魔の森の家」と並ぶ、カー短編の最高作
★★★★☆
■「パリから来た紳士」
1849年4月、フランスから、ニューヨークに住む老婆
の遺産をひきとりに来たフランス人青年の「わたし」。
「わたし」が老婆の家に到着する直前に、老婆は遺産を狙う性悪女から
遺言書を守るべく、不自由な体でそれを部屋のどこかに隠してしまった。
「わたし」が到着すると、老婆は両眼を動かせるだけの状態になっており、
遺言書のありかを尋ねると、寝台の上の兎の玩具と、ドアの側の晴雨計
を見つめるばかりだった。
途方に暮れた「わたし」は、酒場で出会ったフランス語
を解読できる謎の男・パーリーに相談したのだが……。
遺言書のありかを示す手がかりの提示が秀逸。そして、その
趣向と密接にかかわる、パーリー氏の正体には驚かされます。
■「奇蹟を解く男」
結婚の前に、ロンドン観光にやって来たジェニーは、奇怪な出来事に立て続けに遭遇する。
密室状況の彼女の寝室にあるガスの栓がひねられ、さらにその翌日に訪れた
セント・ポール寺院の〈ささやく回廊〉では、「第一回目は失敗したが、二回目は
きっとやりとげてみせる」といった主旨の内容を話す不気味な声を聞いたのだ。
果たして〈奇蹟担当局〉のH・M卿は、これらの謎を解くことができるのか?
ガスの噴き出す音や硫黄マッチという手がかりはよくできていると
思いますが、マッチのほうは、当時のフランス風俗についての知識
がないとわからないというのが難点。
名探偵の競演
★★★★★
全9編中、フェル博士ものが3編、H・M卿ものが1編、マーチ大佐ものが2編と、まさに名探偵の競演というべき短編集で、ジョン・ディクスン・カー(=カーター・ディクスン)入門としても最適です。
表題作の「パリから来た紳士」も素晴らしいですが、シリーズ・キャラクターに愛着を持っている身としては、「奇跡を解く男」も強く推したいところです。H・M卿も「奇跡を解く男」の中で嘆いていますが、優れたトリックというものは、種が明かされると「なんだ、つまらん。そんな簡単なことか」と思わせるもので、この両作品はその典型です。
カーの作品の特色と言えば、不可能犯罪、怪奇趣味、そしてロマンスだと思いますが、この短編集もまたそれらの要素が盛り沢山です。もしかすると、カーを好きになるか嫌いになるかは、中でもロマンスの要素を受け入れられるかどうかが一番大きいのかもしれません。
ともあれ、まずは名探偵の競演に身を委ねていただければと思います。そして、時に「そっくり同じタイプ」、「本質的な差異はない」と書かれる、フェル博士とH・M卿の違い(私は2人の一番の違いは、他人に対してやさしいか意地悪かだと思いますが)も感じてもらえればと思います。
カーの奇想とユーモアと先達への敬愛の念が味わえる
★★★★☆
傑作「パリから来た紳士」を含む短編集。フェル博士、H.M.卿、マーチ大佐と探偵役も多彩。カーの様々な作風が味わえる。
「ウィリアム・ウィルソンの職業」はドイルへのオマージュと思われる作品。ドイルの伝記(ミステリ論ではない)も執筆したカーの敬愛の念が伝わって来る。「見えぬ手の殺人」は最後で明かされる犯行方法の意外性が読み所。それにしても、カーは良くこういう事を思い付くものだ。「奇蹟を解く男」は如何にもカーらしい作品で、大きな謎と巧みな伏線、最後の迷路の場面などサービス満点。そして、タイトル作「パリから来た紳士」は「妖魔の森の家」と並ぶカーの短編としての代表作。クィーンも「短編ミステリのお手本」と絶賛した傑作。「妖魔の森の家」がカー本来のオドロオドロしい雰囲気と大胆なトリックを融合させた作品なのに対し、本作は洒脱が持ち味。結末で、爽やかな"してやられた"感が味わえる。
カーの奇想とユーモアと先達への敬愛の念が味わえる傑作短編集。
カー最高の短編
★★★★★
「パリから来た紳士」は
遺言状の隠し場所の謎と謎を解く紳士の謎を
歴史ミステリで書き上げた傑作です
これだけ読んでもカーが稀代のストーリテラーだと分かります