しかし、「貝の中」、「蛇」の小説は、まことに読み応えがあり、むしろ「蛇」などは、表題作よりも優れ、安保時代の象徴的な小説で、私などの安保の頃など知らない世代でも、作者の時代への反感や違和感などが伝わってくる。
残念だったのは「密告」だった。この作品が収録してないければ、まちがいなく損をしない書籍になるはずだった。これは、ジャン・ジュネ作品に影響を受けているらしいが、「密告」に登場する人物たちは「ノ-トルダムの鐘」、「泥棒日記」の登場人物そのものであり、完結したそれらの物語をだらだらと描いたどうしようもない二次作品である。
比喩の仕方、表現も、ジュネそのものの「密告」は、ジュネ文学を気取る駄作だった。