戦犯管理所から溥儀が出た後結婚した、最後の妻李淑賢を除いて、溥儀の妻達は李玉琴以外、皆貴族階級出身の女性である。満州国の貧困の家庭から選ばれ、わずかの間だけ「福貴人」と呼ばれ、嬉々としてその立場と贅沢な環境に素直に喜び、思案外の貴族の煩雑なしきたり、取り澄ました雰囲気に苛立ち、怒る「福貴人」=玉琴。わずかにして崩壊する満州国と同時に、彼女の誇りであった貴人の立場が変わり、彼女にとって貴人の名は価値あるものから自分を縛り付ける面倒なものへ変わる。その中で貴人として溥儀を待ち生きるか悩む玉琴。溥儀への愛情転じて苛立ちに変わり、共産主義へ変貌した新中国で生きる決心をする玉琴。これ以上は語るまい。是非貴方自身で彼女の半生を読んで頂きたいと思う。
入江氏の筆で描かれる彼女は一本気かつしたたか、そして率直。中国という広大な大地に足をつけて精一杯生きていこうとする、実に人間的で魅力溢れる女性である。ラスト・エンペラーの妻として歴史に翻弄されながらもそれに屈することなく、こんなにたくましく痛快に生きた女性の歴史。ご一読を是非お勧めしたい。