批評家トロツキー
★★★★★
トロツキーは有能な理論家であり批評家であった。前者については本文庫の『永続革命論』、後者についても本文庫の『レーニン』から十二分に読み取れるだろう。
さて大半の読者は本書に収録されている「スターリン論」に興味があるのではないかと思う。かくいう筆者も、「ニーチェ論」や「ヒトラー論」も魅力的だったが、書かれることのなかった『スターリン伝』のプロトタイプというべき「スターリン論」に興味があった。
目当ての「スターリン伝」であるが、さすがの“理論家”トロツキーも盟友で政敵となったスターリンへの憎悪を隠し切ることはできなかったようで、他の評伝ほどの鋭さは感じられなかった。
この点をトロツキーの“弱さ”と断言することは可能だろう(本書の解説もそういった傾向が強い)。むしろ筆者は“人間”としてのトロツキーが出ているようで興味深かった。例えるなら研ぎ澄まされた刃のように“鋭さ”と“脆さ”をあわせ持つトロツキーの内面が露呈しているように思えた。
結果的に本書はトロツキーによる「トロツキー論」となっていると思う。トロツキーの評伝を楽しむのはもちろん、トロツキーの内面を知る上でも手ごろな作品だと思う。