人間ドラマとしての警察小説
★★★★★
面白かった。著者は後書きで、自分の小説は推理に重きを置いていない、むしろ人間ドラマなんだ、と言っている。なるほどその通り、現代の家族問題、若者問題、金融問題に関わる会社と会社人の問題など、いずれも現在の社会的に問題になっている諸側面が、非常にうまく絡み合い、小説として構成されている。
しかし、一方で、推理モノとしてもなかなか絶妙で、正直最後まで、ことの真相をめぐって、読者はかなりヤキモキするし、また、悲劇的な結末を迎えるのかと、かなりドラマティックでもある。
(一応)主人公の樋口が地味で控えめだから、つい地味な話かなぁ、などと幻惑されるが、実際は非常にテンポのいい、アクションあり、恋あり、推理ありのとってもよい日本型警察小説だと思う。
シリーズ他作品で登場する人物もさりげなく姿を現すなど、なかなか癖のある、ひねった、そのうえ上品なできと思われる。とても楽しめました。
一気に読んだ
★★★★★
長編であったが、非常に面白く一気に読了した。
警察組織内部の問題と家族関係の問題が交互に展開され作者の読ませる巧さを感じた。
意外だったのは樋口シリーズにも関わらず登場が少なかった点。
但し、その冷静沈着な考え・態度にとてもよく性格が表わされていたと思う。
いわゆる推理モノではないが警察小説としてはトップレベルの作品だ。
親子の絆を感じる小説
★★★★★
サスペンス小説というよりも親子の愛情を描いた心温まる小説でした。私にも二人の小学生の男兄弟がいます。甘えん坊の長男と、我が道を行くタイプの次男という構成は2人の男兄弟の場合よくあることだと思います。あと数年もすれば彼らは家族より友達との付き合いを大切にし、遠い存在になるのかなぁと考えると今から少し寂しさを感じます。そんな親の子供に対する接し方のヒントが本書には書かれてあった気がします。当然それだけではなく、サスペンス内容的にも面白い小説でしたので文句なしに☆5としました。
やはり、思慮深い男なのか?
★★★★☆
樋口顕シリーズ3作目。
いつも人の目を気にして、
思い通りに行動できず、
決断力のない男………樋口顕。
しかし、その行動が、
常に思慮深く、
心の読みにくい男として上司の信頼となってしまう。
他人の目を気にしすぎる態度が、
面倒見の良い男として認められてしまう。
本心とは裏腹に。
そんな彼が、
事件の解決の糸口をつかんでいく、
ということがこれまでのパターンだったが、
今回はそれだけでなく、
やはりこの男、できる!
というのが見えてくる。
どうやら過小評価してるには、自分だけらしい。
今野敏の作品は、
推理の比重よりも、人間のドラマ。
警察内部にいる人間も、
特化している部分はあるとはいえ、人間。
そこを描いている。
今回は特に、
体育会系の警察への、
ある意味批判でもある。
短絡的で、上位下達式な体質、
そんなしがらみが、
事件を複雑化させる。
容疑者が少ないため、
犯人探しは難しくない。
タイトルにあるビート、
ダンスが一つのキーワードでもあるので、
そこから取っている。
その部分のドラマもまた、
さわやかで気持ちが良い。
バイプレーヤーの魅力
★★★★★
樋口顕シリーズの第3作です。作者のあとがきにもあるように物語に深みと厚みのある力作です。3作の中では一番練れた上質な作品に仕上がっています。樋口顕の冷静でしかも人間味のある対処法には感心させられますが、この作品ではヒップホップに人生をかけている藤代タエというバイプレーヤーが非常に魅力的に描かれています。物事にまっすぐに向き合う素直さと真摯な姿勢に惹かれました。島崎英次に対するさりげない言葉に作者の思いがこもっているように思えます。「信じているから」と言うタエの言葉に英次は救われます。「大切なものがある人は自殺しない」と言う言葉からも作者のメッセージが伝わってきます。彼女の登場で物語りは彩を添えながら、意外な方向に展開していきます、人を職業や好きなもので十羽一からげにしてしまうことの危うさに気づかされた気がします。今年は連続テレビ小説の「瞳」でもヒップホップが取り上げられ、ダンスの魅力を知ることができました。先入観にとらわれず、大切なものを見つけて、真直ぐに生きて行きたいものです。この作品は家族小説、社会小説の傑作です。多くの若い人や、人生に疲れた人にも(笑)是非読んでもらいたいと思います。