ヒーロータイプではないが……
★★★☆☆
警視庁強行犯係・樋口顕シリーズの第一弾です。第三弾「ビート」、第二弾「朱夏」、そして本書と逆に読んでしまいました。やはりシリーズものは回を重ねるほどに完成されていくのだなあということが逆に読んでみて返ってよくわかります。主人公の樋口顕は決してヒーロータイプではありません。ワーカホリックぎみな中年男、妻を愛しているが多くの日本人家庭と同じく愛情表現は控えめ、というより愛情表現は皆無に等しい。一人娘を愛しているが娘が自分をどう見ているか気になる40歳。仕事上も上司や部下の自分に対する評価がどうなのかが気になり、ときどきそんなことをうじうじ気にしている自分がイヤになる。そんな強行犯係係長(ハンチョウ)樋口顕が普通にカッコイイ!
樋口さんの人柄が良い・なんとなくせつない読後感
★★★★☆
全共闘世代に対して、そのすぐ下の世代である樋口さんの反発がくどいくらいに
出てくるのが、さらにそのずっと下のバブル世代の自分にはピンと来ませんが、
ただの人情デカでなく、娘と同年代の美人女子高生に魅かれ、とまどうところが
かえって誠実な人柄に思え、好感が持てる主人公です。
1996年出版時には大ブームだったアダルトチルドレン(AC)と共依存(本
書ではこの用語は出てきません)が主要なファクターなのですが、「結局誰にで
も当てはまる」ということが明らかとなった後には、すっかり廃れた概念なの
で、時代を感じます。
それを割り引いても、容疑者とされたリオには”せつなさ”を感じ、樋口さんに
共感出来たような感覚で読了しました。
樋口・氏家の”相棒”感も、ありふれた凸凹コンビじゃなくて、実際ありそう
なリアリティが良かったです。
警察小説好きには評価が難しい
★★★☆☆
2008年の今、警察小説は大流行だ。
今野敏の再評価も、そのことに起因しているのだろう。
でもちょっと待って。
警察小説って刑事が主人公なら警察小説なのか、
警察が舞台なら警察小説なのか。
警察小説の定義がはっきりしないまま、警察小説という言葉だけが
一人歩きしている。
私が思うに、
本当の意味で警察小説と呼べるのは横山秀夫のものだけだ。
あの濃密な小説こそ、警察小説と呼ぶにふさわしい。
そこで本書だが、
確かに主人公は刑事、舞台とも警察である。
しかし、小説から伝わってくる空気が軽い。
キャラ立てもちょっと強引で、正直下手だと思う。
ただ、共感する部分は多々ある。
全共闘世代への総括もそうだし、
取調べとは容疑者の話を聞くことというのもそうだ。
解説に、10年前の作品だが、今読むほうが面白いとある。
まさにそうだろう。
結局総合すると、横山秀夫が好きな人には薦めないが、
いわゆる警察小説が好きな人には、
割りとまともな警察小説ということでおすすめである。
私自身は、このシリーズはもう一冊読んでもいいかなぁとおもう。
説明がくどい。だけど、シリーズ化されている作品も読んでみたいと思った。
★★★☆☆
数多ある警察小説に登場する人物像、例えば、我が道を行く刑事や職人気質の刑事(悪くいえば偏屈)の対極にあるような性格を持つ人物を主人公にとした警察小説。且つ主人公は警察組織の中で冷や飯を食っているのではなく、ある程度順調に出世の階段を登っている。しかも、上司のその能力を正当に評価された上でのことだ。
しかし、その主人公樋口は、自分に対する他人の評価と自分自身が下す自分に対する評価のギャップに悩む。自分はただの八方美人であり他人(特に上司から)過大評価されていると悩むのである。そんな樋口がそんな自分の性格に悩みながらも、捜査方針に疑問を持ち自ら動いて事件を解決する。
この小説には推理の要素はあるものの、それが主題ではなく樋口という人物を描くことが目的なのだろう。だから、この作品では彼が何故このような人物となったのかという理由が繰り返し描かれる。
著者はそれを「全共闘前後」という世代に求め、樋口に何か出来事がある度に何度も語らせるのだが、正直どちらの世代でもない私にはとにかくクドかった。
また、穿った読み方をすれば、リアルに書かれているように感じられても、実際のところは樋口という人物が警察組織の中で認められるということはあり得ないことであり、著者はその事実を知っているが故に何度も何度も樋口の性格を説明(言い換えれば言い訳)してしまったのでは?とも感じてしまった。
批判的なことばかり書いてしまったが、シリーズ物の主人公として樋口という人間は魅力的だと思うとともに他の作品も読んでみたいと思った。シリーズの他の作品も本作と同じようにクドければ興ざめなのだが、スッキリとしたものであれば魅力的な作品になっているような気がする。
良質なエンターテインメント。樋口顕シリーズ一作目。
★★★★★
『隠蔽捜査』などで最近、円熟味を増した作家・今野敏の警察小説。
誠実なA型タイプの警視庁捜査官・樋口顕の活躍を描いたシリーズの第一作目です。
登場人物が魅力的で、また警察小説でありながら、ホームドラマ的要素もあり、一級のエンターテイメント小説として大いに楽しめると思います。
本書では、随所に、団塊(全共闘)世代への批判が織り込まれており、それに共感できる人にとっては特におすすめです。
私自身は、全共闘世代の無責任な考え方に触れること多いので、多いに共感できました。ただ、そうした世代論に興味がない方には、少々くどく感じられるかもしれません。
本書で描かれる連続殺人事件の被疑者として、リオという少女が登場します。リオは大変な美少女として描かれます。この美少女の描写や彼女に対する主人公・樋口の思い入れが、男性の視点で描かれるので、女性にとっては、すこしリアリティが感じられないかもしれません。
その点で、本書は、女性でも楽しめると思いますが、若干、男性の読者のほうが楽しめるかなと思います。
文章はクセがなく、読みやすいです。また文庫本ながら文字が大きい点でも読みやすくていいです。