75年にリリースされたアップルからの最後のアルバム。妻パティとの別居や多量の飲酒が原因の肝臓病など、70年代中盤のジョージはかなり災難続きといった感じであった。それに加えて、前作『ダーク・ホース』の売上げ不振やツアーの不評などが追い討ちをかけていた。決して良いとはいえない状況下で発表された本作は、そうしたマイナス要素をポップスへの原点回帰により打破しようとするジョージの意志が感じ取れる作品だ。
なかでもオープニングの「二人はアイ・ラヴ・ユー」は、もともと71年にロニー・スペクターのシングル用に書き下ろしたもののボツになっていたナンバーで、ウォール・オブ・サウンドに洗練さを加味したナイーヴな手触りが、いかにもジョージらしくて僕は好きだ。(木村ユタカ)