なんとなく気が抜けて行くよう
★★★☆☆
佐伯一麦は私小説系の作家。主人公は持病に肋膜炎をもつ電気工で28歳〜33歳までの人生が淡々と描写されている。
妻と長女、次女、長男の3人の子供を持つが長女は緘黙症、長男は川崎病と問題を抱えている。妻も自殺未遂をするし、夫への愛情も強くない。どうかすると妻と長女は男に対してより飼い犬への愛情のほうが強いのではないかとさえ思う。
この家族は良く引越しをするし、男がサラ金から金を借りたり、仕事の都合で別にアパートに住んだり、妻と子とその夫の間にはどことなく危うさが漂う。
文中場面がいきなり回想になったり、切り替わったりでその変化をどうかすると見落としてします。男は文学の才能があって新人賞もとり、性格は冷静で温和ではあるが影が薄い。小説の印象としては寂しく明るくない人生の道をとぼとぼと歩いている感じ。
巻末に福田和也の解説に「耳を澄ます姿勢で」と書いてあるが、気が抜けていくようです。