大人のふたりの恋の行く末
★★★★☆
舞台・洲崎を知らなかったものの、非常になじみのある場所だったのでビックリでした。ハローワークで毎月申請にいってた、ご近所のあの場所だったのです!
たしかに当時の「大賀」って建物まだありますよ、いいかんじの情緒がまだほんのり残ってます。ああ、ここがあんなたっぷりと水が流れる街だったんだなあ〜と思うと、埋め立てられているいま、少しかなしくなっちゃうけど!
朴訥な男とチャキチャキの女が、まったりと勝鬨橋からアンニュイに隅田川なんか眺めちゃってるのがオープニング。ふたりはワケアリで、「これからどうする?」なんてあてどなさが、芥川の「羅生門」っぽい冒頭です。
なんの計画もなくバスに乗って(これもまた懐かしい映像)、洲崎の橋のたもとまでたどり着き、そこの居酒屋に居座った男狎れした女と、しかたなく世話してもらった蕎麦屋で出前持ちになった融通のきかなそうな男のあれこれ。男は将来設計はこれといってないものの、逃げられれば女への執着はストーカーなみ。女は尻軽で気ままな風でいて、やっぱり男に情が残っている。ふたりは別れられない。ラストの爽快な幕切れが気持ちのいい映画です。
新珠美千代のやさぐれた演技はすばらしい!この女優は、今のヅカ女優の変顔とは比べようのないほど、気品があって端正な顔立ちです。しかもどんな役もこなせる演技力もある。苦界に沈んだことのある女の倦怠・打算・目端のよさなどの風情が画面に浮き上がっています。三橋達也は監督がほれこんでいたらしい。ぶっきらぼうさと単純さのある男の魅力が伝わってきます。玉ちゃんという役名の蕎麦屋の店員・芦川いづみは監督が見出した女優。確かに甘いヤサ男風な監督が好きそうなカワイイ系の清純派です。それよりいい味出してるのは轟夕起子演じる居酒屋の女将。酸いも甘いも、って感じですが、冷たいわけじゃない。昔の女は水商売でもこれほど度量があって人に優しかったんだなあ、と胸を打たれること必至です。
ラストはこれからどんな未来が待っているのでしょう。女のいいなりだった消極的な男が手を引いて駆け出すのですから、きっと主導的に女を幸せに導く公算があっての行動に違いありません。いずれにしろ、いろいろあった男女に訪れたハッピーエンドに違いないと思ったのでした。
なぜ無職の男に女がついてくるのか
★★★★★
若く、美しく、男を振り回す女がいる。
その女は、一時、他の、金のある男のものになってみたりもするが
やはり、一人の男のもとに、ただダメで、気の優しいだけの男のもとに
帰ってくる。
あの男の何が、女に、自分を選ばせるのか。
それは、金、外見、仕事、知性、話や趣味があう、といったものでは全然ない何かであり
それは、現代の男女の間で、失われつつあるものではないか。
なにしろ、現代では、上記の理由のみで、相手が選ばれているんだからね。
記録映画としても価値がある逸品です。
★★★★★
この映画の、もう一つの見どころはロケシーンです。
とにかくロケが多いです。
洲崎パラダイス(現在の江東区東陽町)はもとより、
秋葉原の電気街も登場します。
当時の洲崎を知る地元人が羨ましい、、、、
と思う程ディティール満載です!
尚、DVD付属のブックレットは23ページもあり
スタジオジブリの鈴木敏夫氏の映画解説、
川島監督を中心としたロケ風景写真、
当時のポスターなど盛りだくさんです。
買うとき、ちょっと高いな〜と思いましたが
満足してます。
心地好い男女の沙汰
★★★★☆
今で言う木場とか東陽町辺りにあったらしい遊郭「洲崎パラダイス」。本作は、そこへ文無しで流れ着いた男女の沙汰を描いた人情劇で、監督は近年再評価著しい川島雄三。一見古い映画にありがちなストーリーなんだけど、その運び方が軽快で心地好く、水辺の情景が何とも言えない余韻を残す素晴らしい作品だった。
うだつの上がらない男に愛想を尽かし、飲み屋でつかまえた上客と仲良くなるとすぐに仕事を辞めてホイホイついて行く女。そんな女に未練たらたらで、せっかく紹介してもらったそば屋の仕事も放り出して雨の中女を探しに行く男。二人とも文章で表すとどうしようもないんだけど、どこか憎めないキャラをしている。
そして、そんな男女の沙汰に呆れながらも、それがこの町の掟とでも言うかのように後腐れなく接し、自身も何年も前に女と消えた旦那の帰りを待っている飲み屋のママさんがいい味出し、売上金をくすねてしまうような駄目男を健気に見守るそば屋の女の子が物語に彩りを添える。
女に逃げられた男は、このそば屋の女の子の支えもあってか見違えるようにマジメに働き出すんだけど、そこに女が戻ってきて物語は急展開を迎える。ラストは傍から見たら「おいおいおい」の連続なわけだけど、その「おいおいおい」にこそ、男女の色恋は集約されているのかもしれない。2人からしてみたら観客のそんな視線なんてどーでもいいのだ。そこには2人にしか分からない共通理解があり、無いなら無いなりに了解事項がある。
「おいおいおい」と思いつつ、そんな気持ちでラストシーンを見ていたら、何だかとても清々しく、心地好く感じられた。
新玉は偉い
★★★★★
新玉三千代って、たいした女優ですねぇ。
これを見て、キャサリン・ヘプバーンのようにコメディ俳優としての才能も豊かだったんだなぁ、と思いました。