シベリウス & ウォルトン: ヴァイオリン協奏曲
価格: ¥2,854
あまたあるヴァイオリン協奏曲の中でも、シベリウスが20世紀はじめに書いたニ短調の作品は名作中の名作に数えられている。この世ではないどこからかきこえてくるような独奏ヴァイオリンのささやきにはじまり、息もつかせぬ展開で印象的なメロディーが次から次へとあらわれる。スリルとサスペンスいっぱいの小説や映画を形容するのに「ローラーコースターのような」という言葉が使われるが、この曲などもまったくそんな感じだ。上手なヴァイオリニストが弾けばたいがいはおもしろく聴ける――のではあるが、ただ弾き飛ばしただけでは聴き終わったときに何も残らない。
その点、諏訪内晶子の演奏には、聴き手の心に訴える情感の豊かさがある。特に、ゆったりとしたテンポで弾かれる第2楽章。奥ゆかしくエレガントで、しかし同時にスッキリとした清涼感を感じさせる。際立って美しい低音も聴きどころだ。
シベリウスの曲がクラッシーなパーティードレスだとすれば、ウォルトンの曲は遊びの多いカジュアル服。第1楽章ではタンゴ・ヴァイオリンを思い出させるようなむせび泣きを聴かせ、第2楽章では一転してスペイン情緒を持ち出す。第3楽章のどこかにはジャズの残り香が漂っていなかったか…。精妙なハーモニーでアクセントをつけられ、親しみやすい曲調の中にモダニズムの輝きを感じさせるこの作品を、諏訪内は楽しみながらさっそうと弾いている。(松本泰樹)