21世紀における天皇家の葛藤を活写
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『文芸春秋』誌にこの数年掲載された、皇室関係の重要論考を集めたもの。識者の座談会、女性による提言など色々あるが、全体の中では、福田和也の論文と、朝日新聞の皇室記者・岩井克己と福田の対談が、問題の所在を鋭く抉り出している。福田論文は、昭和天皇が歴代天皇の中でも際立って大きな皇室改革を成し遂げた大改革者であったことを明確化する。敗戦という天皇制の危機を巧みに乗り切っただけでなく、側室の廃止、民間からの皇太子妃選びによって、「昭和天皇は、皇室のあり方を劇的に変えてしまった」(p152)。そして、昭和天皇の大改革が、皮肉にも現在の皇室の危機をもたらすことになってしまった。皇太子や雅子妃を非難する論者が多い中で、福田の冷静な考察は光っている。皇太子の「雅子のキャリアとそれに基づく人格を否定する動きがあったのも事実です」という発言は、「皇室では、誰かを責めるような発言があってはならない」(岩井、202)という伝統に反する重大事件であった。(福田)「素朴な疑問ですが、天皇と皇太子が直接に語り合うわけにはいかないのでしょうか。」/(岩井)「親子とはいっても、天皇が言葉を発するということは、抜き差しならない状況になってしまうので、陛下としては発言は慎重にならざるをえない。それにどうも、皇太子さまはちょっと難しい話になると、すっと引いてしまうところがあるようです。」(203) 本書を通読して思うのは、もはや長期における男系の維持は困難なところまで来てしまったのではないかということである。