昭和色
★★★★★
特有の文体でアンダーグラウンドな世界を描き出すのはまさに著者ならではだと思います。文章を学ぶ人が必ずいわれるのが、野坂昭如の文章だけは真似するな、ということだそうです。それほど個性的で、独特です。書き出しはややぶれている感じを受けますが、少し進むと饒舌な文章はリズムに乗って気持ちよく読めます。スブやんというエロ事を商売にしてしまった男とその仲間の可笑しくももの悲しい物語です。当時の風俗小説としても読めます。男というものは、どんな時代であっても変わらないな、という思いがいたします。いい歳をした大人が、世の常識とかけ離れた価値観と行動様式を持ちながら、したたかに生活の知恵を発揮してゆくのがとても面白いです。それぞれが面白おかしくやっているわけではなく、真剣に生き抜こうとするほど、常識とずれてゆきます。昭和30年代。映画続・三丁目の夕日で描かれた同じ時代です。まだ、空襲を昨日のことのように思い出せます。昭和という時代のニ面性。軍国主義から一夜で民主主義の世界で暮らす羽目になった市井の人たち。昭和という時代にこだわった、戦後焼跡闇市派たる著者の作品は、昭和の色に染まっています。
実は文体の実験作
★★★★★
ストーリーの猥雑な生命力に昭和無頼派作家の味を読めるが、そこは私小説「蛍の墓」や童謡「おもちゃのマーチ」を生み出した野坂の作品であり、何ともいえない可笑しさと哀感が伴っている。この小説は実はかなり技巧的に凝った作品でもあり、これが長編デビュー作ということは驚くべきことであろう。
地の文と台詞の間に、関西弁による心情の独白を巧妙に織り交ぜて文体の問題に捻りを聞かせる一方で、関西弁のリズムを最大限に活かすことで言文一致以前、近世の世話物を彷彿とさせる不思議な言語空間を作り出している。やはり関西弁を駆使した町田康が文壇に活動をシフトした頃に、たまに野坂が引き合いに出されていたが、個人的には野坂の作品の方が読み応えがあると思う。どちらも私小説作家の側面を持つが、戦中派・野坂が実人生でくぐってきた悲劇の分、作品世界に重さと社会的な広がりがあるのではないか。
昭和は遠くになりにけり
★★★★★
野坂昭如といえば、大島渚とケンカしたり、仲良くなったり、酔っ払ってテレビに出てる人という印象とアニメ映画「火垂るの墓」の作者というものしかなかった。実をいうと彼の作品を読んだことはなかったのである。東京出張のお供として本屋さんで購入し、一気読みでした。
独特の文体にリズムがついて、始めとっつきにくいが、どんどん読み進めることができます。
しかしながら感じたことは「昭和は遠くになりにけり」ということだ。こんな生きていることに一生懸命で、汚くて、恥ずかしくて、欲望が身体から溢れているよな、文体から体液を感じるような、いわば一言でいうと「汚らわしい」作品は最近お目にかかれない。最近はどんどん「リアリティ」を感じない作品が量産されていて、読み手の私になにも響かないものが多すぎる。人間、生きていれば汚物を周囲に撒き散らしていることを気づかなければなりません。「汚らわしい」元はなにを隠そう、我々なんですよ。この作品はこの事実を明確に的確に我々に伝えてくれる。本作のラストがそう。人間なんてそんなものなんです。偉ぶっていても、結局そこ(本作のラスト)が根源なんです。そんな基本的なことを教えてくれる本作は、「平成」の時代に燦然と「昭和」の痕跡を残し続けるであろう。これからもずっと。
性と死を見つめて
★★★★☆
基本的には戦後のある時期の、エロとそれで飯を食っている人達についての面白おかしい話ですが、かなり恥ずかしい死に様さえ喜劇になっている辺りが・・・・・面白い、愛すべきエロ馬鹿達の話という表現だけで片付けるには大きすぎる内容かもしれません。
確かに面白すぎる
★★★★★
上品な方でも楽しめると思います。PTAでは確実に黙殺されそうな内容ですが、そういう人に限って裏では喜びそうな、とにかく、面白いとしか言いようのない傑作。最後のシーンは笑いどころか、もし自分がそんなことになったら洒落になっていないと恐怖する場面でもありました。とにかく、多少の癖はあっても、これ以上に笑える文学はないと思える素晴らしい本。