この本の特色は、前半でベクトル空間の双対性を論じ、テンソル代数、外積代数を定義してしまうことにあります。そしてそれらのことを土台としながら、中盤で正規直交完全性やグリーンの公式などの具体性をあげ、後半は主に微分形式を使って曲面や多様体を解説します。前半で抽象的な議論がされますが、もし十分に理解できなくても第11講にとべば、また読めると思います。そして最後まで読んでから、また最初に戻ればよいでしょう。
このシリーズは演習問題がないので('例題'さえもない)、具体的に計算したい人は他の本で補わなければなりませんが、(多様体の入門としての)ベクトル解析自体は十分理解できると思います。逆に物理、工学系の学生で、勾配や発散を計算で身につけたい、ストークスの定理やガウスの定理をとにかく使いこなしたいと思う人には向いていないかもしれません。
個人的には読みやすさ(1ヶ月以内で読めると思う)、コンパクトさ、参照のしやすさから、30講シリーズでも出色のできだと思います。