しかし、ヒルベルト空間は扱っているもののバナッハ空間やソボレフ空間については全く触れていない。また、リースの(表現)定理は扱っているのにハーン・バナッハの定理やラックス・ミルグラムの定理は省略されている。さらに、ベールのカテゴリー定理や3つの基本的原理(一様有界性の原理、開写像定理、閉グラフ定理)も省略されている。
このように重要な定理がほとんど抜け落ちてしまっている為、この本だけでは関数解析全般を学習するに!は不充分なのである。その不充分さが本のタイトルを関数解析とはしなかった理由の一つでもあろう。それ故、読後にもう一冊専門的な本を読まないといけない。そういう意味ではルベーグ積分と関数解析の中間を埋める本と言えるのかもしれない。
専門的な本を読んだ後に、同著者の「無限からの光芒―ポーランド学派の数学者たち」もあわせてお勧めしたい。こちらはバナッハ、シュタインハウス、シャウダーといった人達が登場する「固有値問題30講」後の関数解析の歴史物語である。
本書は大きく2部構成と考えられます。前半は13講までで、大学教養の線形代数程度の内容で、固有値に関するトピックが満載されています。大学で固有値がよく分からなかった方でも、前半を読めば習得できること間違いありません。
14章からの後半は、積分方程式を導入として、ヒルベルト空間上の固有値問題が取り上げられます。私自身は、後半部は仕事とは関連ありませんので、趣味的に眺めています。ちなみに本書全体の構成は、クーラン-ヒルベルト「数理物理学の方法」に似ていますので、これの攻略本(?)という使い方もできますね。
固有値を理解するための歴史的経緯の重要性を、著者は「はしがき」!でも強調されていますが、実際、フレドホルム、ヒルベルト、フォン・ノイマンなどが登場し、読者の興味を持続させる工夫が見られます。