筆者が大学などで行った講演などに加筆・訂正を加え出版したものなので、文体も話し言葉調で、読みやすい。しかし、それだけに説得力の欠ける部分は多少なりとも目に付いた。こういった教育肯定論を述べてゆく場合、やはり統計などを利用しなければ、個人的な体験談では説得力不足は仕方ないでしょう。それだけデリケートな問題であり、表出しづらい問題であると捉えられなくもないですが、私はそう感じました。
教育改革のもたらす良い面と、悪い面の両方に触れている点(当然といえば当然ですが、読んで初めて気付かされました)、学校の社会化機能と配分機能、子育てエージェント、地域教育の落とし穴(教師の専門性の喪失)、教育の限界などに触れた論考は、大変参考になり、様々な示唆を受け取る事が出来ました。
本書と共に、同じ筆者の作品である『日本人のしつけは衰退したか』という本を参考にしながら読んでゆくと、更に深い見識が得られるような印象を私は受けました。見た目は厚いですが、それほど重量は無い点から考えて、上記のような点に興味がある方には一読の価値ありだと思います。