また、巻末に収録されている東大教授・山内昌之氏との26Pにもわたる対談も、読み応えがあって良かったです。
新選組のマイナー隊士に少しでも興味のある方、・原田左之助・生存説を推したい方、新選組が好きな方は、是非一度読んでみて下さい。
おすすめです…!
同様の作品として司馬遼太郎の短編集「新撰組血風録」があるが、本編もこの司馬作品に並ぶような傑作。「血風録」と同様に、近藤・土方といった中心人物ではなく、脇役クラスの人物を主人公にした作品が多い(余談だが、本作において沖田総司の影は非常に薄い)。登場人物や展開も史実に沿った内容になっており、史書から掘り起こした実在の人物を主人公に 正な物語を作っている。
特に明治以降も生き残った新撰組隊士を主人公にし、新撰組を遠景において描いた作品群が印象的。
「燃えよ剣」でも函館まで土方歳三と行を供にする小姓市村鉄之助(「五稜郭の夕日」、 丁の忠助(「忠助の赤いふんどし」)、函館戦後、西本願寺の夜警として生きた島田魁(「巨体倒るとも」)や土方の戦死後、最後の新撰組隊長になり、後に謎の切腹を遂げる相馬主殿(「明治新撰組」)、原田左之助が存存していたという設定で描く「明治四年黒谷の私闘」など。
一方で、新撰組の中でも主義主張ではなく栄 のために目先の利で旗幟を変節していった男たちも少なくなかったいうこともまた描かれる(「ふらつき愛之 」「近藤勇を撃った男」)。
いずれも実在の人物を描いており、描写も逸らず、ヒロイズムとは一線を画った端正な筆致は好感がもてる。お勧め。
9つの短編と対談から成る単行本だが、その短編の主人公にはそれぞれ異なり、新選組隊士や元隊士である。たとえば、第一作の「輪違屋の客」では奇しくも、司馬版では映画『御法度』の原作である「前髪の惣三郎」の主人公、加納惣三郎を主人公に配しているが、内容はむしろ史実に即した展開となっている。
加納惣三郎の他、主人公は松山幾之介、加藤愛之助、富山弥兵衛、沢忠助、島田魁、市村鉄之助、橋本皆助、相馬主計。近藤勇、土方歳三、沖田総司など通常の主役級はあくまで脇、主題はこれら主人公の生死。新選組の志に最期まで忠実だった者、見限って時代の波に乗ろうとした者、それらの生き方死に様のすべてに、新選組の歴史が影を落としている。
史実に即し、かつ読み応えのある小説として展開するというのは、中村氏が一貫して取られている創作姿勢である(ただし、原田左之助が戊辰戦争を生き延びたという意表を突く設定の作品も入っているが、これは原田の生死に諸説あるので、虚構とは言えないだろう)。司馬『血風録』の面白さを否定するつもりはまったくない(白牡丹の愛読書のひとつである)が、この短編集は中村彰彦が万を持して出した司馬『血風録』への挑戦状だと読めた。しかも、デビュー作である「明治新選組」等を再録し、氏の新選組もの短編の集大成でもある。
以前、新選組もので大物を主人公とした作品は書かない、ということをおっしゃっていたような気がするが、次は中村版『燃えよ剣』を読みたいっ、と思うのは、白牡丹だけではあるまい。